二階堂ふみが無邪気ながらも、怪しげな色香を漂わせる作品「蜜のあわれ」
2025.3.26(水)
「蜜のあわれ」は2016年に公開された映画で室生犀星(むろうさいせい)の同名小説をベースに石井岳龍が監督を務め制作された。原作小説は会話だけになっているため、映像としてスクリーンに映し出されることで新たな発見をした既存のファンもきっといたであろう。
ストーリーは「おじさま」と呼ばれる大杉漣演じる老作家が二階堂ふみ演じる赤子と暮らした一抹の日々が描かれる。物語の大きなポイントは赤子が金魚であるということ。赤子は普通の人にはわからないが、金魚が擬人化した年齢不詳の人間なのである。そんな赤子は偶々出会ったおじさまの過去の幽霊に恋という概念を教えられる。そうしておじさまの恋人になる!と決めた赤子を老作家は受け入れる。老作家と金魚。奇妙な関係性は恋人の器には収まらない日々を2人に過ごさせようとしていた。
この作品は何と言っても二階堂の芝居が光っている。作中で赤子はその名前通り同じ赤い衣装しか着用していない。しかし、当時まだ20代前半の二階堂は色香を纏う、同時にその魅せ方を熟知しており子供と親ほど年の離れたおじさまが惚れてしまうのも納得できるほどの蠱惑的な立ち振る舞いをみせている。
加えて、赤子は年齢不詳だが子供じみた行動を取ることが多々ある。それは金魚から人間になったことで教育課程を踏んでいないのだから至極当然で、その幼稚さを色香と共存させていることは驚嘆に値するだろう。先ほども書いた通り二階堂は20代前半であったのだ。
(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会
特におじさまと赤子が屋敷で言い合うシーンが印象的だ。おじさまが他の女と会っていたことを知った赤子は怒りに身を任せておじさまを庭の水に突き落とし、原稿を庭に投げてしまう。その時の二階堂の表情はさながらおもちゃを取り上げられた子供。けれども、そこに思い人に裏切られた悲しみが存在している。
だが、その喧嘩の直後、赤子は「おじさまの子供がほしい」といい、その為に他の金魚と交尾してくる、と告げる。思い人に裏切られた、だから悲しい。そういった場面をみせたはずなのに直ぐに感情を無視した動物的な発言をする赤子は観客からしても理解が難しい。二階堂はそんな役どころをしっかり理解しているようにみえる。恋愛において相手が好き、けれど相手が考えていることや気持ちまで理解が及んでいない。そんな子供と大人のような態度に金魚的ともいえる動物的思考を加えた二階堂の芝居はまさに水中の金魚のようにスイスイとスクリーンを泳いでいた。それはあざといとは違う新しい形の小悪魔的芝居にみえ、作中の根幹をなしていたといえるだろう。
二階堂は2019年にも「人間失格 太宰治と3人の女たち」でも文豪の愛人役で色香をみせているが、「蜜のあわれ」は明らかに色香のタイプが違う。是非、2作品を比べたりしつつご覧になってはいかがだろうか。
文=田中諒
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