中井貴一の説得力ある演技と90年代の日本の情景が魅力の映画「ラブ・レター」
2025.3.20(木)
■一昔前の日本を舞台にした映画「ラブ・レター」
映画は時に世俗を反映しており、映像資料的側面でも楽しめる時がある。今回はそんな映像としても90年代の日本の景色を楽しむことができる作品「ラブ・レター」を紹介しよう。
(C)松竹株式会社/株式会社衛星劇場
「ラブ・レター」は浅田次郎による小説が原作となっており、初の映画化作品だ。主人公である高野吾郎を演じたのは中井貴一。温和なキャラクターや二枚目の役柄を演じることが多い中井だが、今回演じた吾郎は歌舞伎町でヤクザから裏ビデオ屋の店長を任されてはいるものの、特に強い権力を持っていないしがないチンピラだ。吾郎の従順さや物事を深く考えない性分が本作の偽装結婚に繋がっており、数十万円の金で吾郎は戸籍を貸してしまう。そうして出来た偽装の妻・康白蘭(カン・パイラン)であったが、あらぬ罪で留置所に吾郎が拘留されている最中に亡くなってしまう。形式的に唯一の家族である吾郎は遺体を引き取りに出向くことになるが...。
始まりに書いた昔の日本の風景というのは吾郎が向かう先々で観ることができる。移民たちが住むアパート、食堂の景色や娘と待ち合わせていた新宿駅。またレンタルビデオ店も動画配信サービス全盛期の今ではほぼ廃れた文化だ。
■迷えるチンピラを演じた中井貴一の巧みな表情
(C)松竹株式会社/株式会社衛星劇場
話を吾郎という人物に戻そう。というのもこのお話はほぼ吾郎が出ずっぱりのお話。つまりは中井貴一の芝居に映画の完成度合いの大きな比重がのしかかっているといえる。
そんな中井だが、作品の要として地に足のついた芝居をみせた。役柄こそパッとしないが、その優柔不断さ中途半端さをしっかりと演じていたのである。中でも印象的なのは偽装妻である白蘭と顔を合わせた2回のシーンであろう。
(C)松竹株式会社/株式会社衛星劇場
驚くことに夫婦といっても、吾郎は白蘭と2回しか顔を合わせない。しかし、そこで視聴者に2人が惹かれ合っていることを印象付けなければラストシーンに全く繋がらない。中井はそんな大事な顔を合わせる場面で大げさな芝居はせずにリアリティのある表情をしている。それはまるで多くの人が身に覚えがあるであろう、気になるからこそのポーカーフェイスを観ているようで巧みだ。しかし、確かに白蘭と顔を合わせてからは普段の表情も物思いに耽っているようにみえる。吾郎という人物は先に述べたようにしがないチンピラで物語序盤でも喧嘩早かったり、酒に溺れたりと思索的には見えない。そんな人物が白蘭との出会いを通して考えているようにみえるのだ、中井の演技が巧みといえるだろう。
中井といえば今も第一線で活躍する実力派。是非、その芝居を本作で楽しんでほしい。
文=田中諒
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