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橋本愛×中川大志が語った自身と役の"10年"...映画「早乙女カナコの場合は」インタビュー

2025.3.13(木)

映画「早乙女カナコの場合は」に出演する橋本愛(右)と中川大志(左)
映画「早乙女カナコの場合は」に出演する橋本愛(右)と中川大志(左)

橋本愛が主演を務める映画「早乙女カナコの場合は」が3月14日(金)に公開される。

柚木麻子の小説「早稲女、女、男」を映画化した本作。大学生になったばかりの主人公・早乙女カナコ(橋本)は、脚本家を目指す長津田啓士(中川大志)と出会い交際を始める。3年後、カナコは大手出版社に就職が決まったが、長津田は口ばかりでまったく脚本を書かない。そんな2人はだんだんとすれ違って...。

今回、カナコの大学入学から10年の歳月を描く本映画を掘り下げるべく、橋本と中川にインタビューを行った。

映画「早乙女カナコの場合は」について語る橋本愛(右)と中川大志(左)
映画「早乙女カナコの場合は」について語る橋本愛(右)と中川大志(左)

――完成作をご覧になったあと、演者としてどんなことを感じられましたか?

橋本「現場では『これってどう見えるんだろうな』と、不思議に思うことがあったんですけど、完成作を見て『矢崎(仁司/監督)さんはこういう映画を撮りたかったんだな』、『こういう空気を閉じ込めたかったんだな』と強く感じました。すべてではないですけど、台詞が詩的に立ち上がっているし、映像と声が別の時空で響いてるようなシーンもあってすごく面白いなと思いましたね」

中川「最初にいただいていた脚本からすると、実際に演じなかったシーン、現場でやらなかったシーンもあって、完成がどうなるのかなと思っていたんですけど、その思いとは裏腹に、いろんなものが凝縮された作品になったなと思います」

――色気があって吸い込まれそうな魅力のある長津田ですが、中川さんはどうキャラクターを作っていったのですか?

中川「独特の世界観、ファッション、思想、言葉...。一見奇抜でクセのある男なんですけど、よくよく紐解いてみると、じつはものすごく小心者で、もろい男で、人間臭くていいなと思っていました。ただ、そんな長津田が積み上げてきたものを抜きにした彼本来の部分、もしかしたら彼自身も気づいていない弱さを軸にできたらなと考えましたし、口を開けばひねくれたことばかり言うんですけど、そんなところもチャーミングに受け取ってくださったらいいなとは思っていましたね」

脚本家を目指す長津田啓士役・中川大志
脚本家を目指す長津田啓士役・中川大志
早乙女カナコ役・橋本愛
早乙女カナコ役・橋本愛

――そんな不思議な魅力がある長津田をカナコはすんなりと受け入れます。私が驚いたシーンでもあるのですが、なぜ彼女は彼を受け入れたと思いますか?

橋本「本当そうですよね〜(笑)」

中川「まだ会って間もないのに手をとって踊って...(笑)」

橋本「『おもしれえ男』って思ったんじゃないですか(笑)」

――(笑)

橋本「映画では、カナコが男性に対して恐怖心があることを詳しく描いていないものの、私が演じるうえでは、その感覚がずっとあって大事にしていたところです。長津田が地面に倒れ込んでいるときに初めて彼の手をとるシーンがあるのですが、体から流れてくる情報って、ものすごい情報量だから、少しでも嫌悪するニュアンスが入ってきたら当然拒絶していたと思うんですよ。でも、長津田の手から入ってきたものが、ニュートラルで、自分が嫌悪するものではなかった...。そうして、長津田にだけは恐怖心を抱かなかったことが一番大きいんじゃないかなと思います。
一緒に踊るシーンも、傍から見たら少しロマンチックに見える行為だけど、カナコ自身、気恥ずかしさはありつつも、変に『自分は口説かれてる』とか『性的な目で見られている』という目線を一切感じなかったと思うんですよね。触れているのに、踊っているのに、怖くない...みたいな。 言い換えれば、『ありのままの自分でいられる唯一の存在』だったんだなと思いました」

――客観的に見て、カナコと長津田の関係性についてはどう思いましたか?

橋本「面白いなと思ったのは、カナコは冒頭『ちゃんと大学卒業しなよ?』、『将来のこと考えてよ』みたいなことを言うのに、実際に長津田がちゃんとしようとしたら嫌がったことです。『何をまともに生きてんだ!』って(笑)」

中川「あはは(笑)」

橋本「カナコって結構ぶっ飛んでるんですよ(笑)。『長津田は私より下じゃないとダメなのに、なんでこんな真っ当に生きちゃってんの?』って原作にも書いてあったんですけど、そういうどこかずるい気持ちがカナコのなかにはあったんだろうし、ただ『好き』というまっすぐな気持ちだけではなくて、グチャグチャとした自意識を含め、いろんなものが絡み合って、そこから抜け出せなかったのかなって思います。自分がそういう自分であることを止められないし、そういう自分のままで長津田が好きなことも止められない、本当はやめたいのに...って。すごく苦しんでいた10年でしたね」

――中川さんはカナコとのやりとりがあるシーンで、どんなことを考えながら演じていたのでしょうか?

中川「時間が飛んでいくお話なので、(演じるうえでも)時間の流れをどう表現するのか、すごく考えました。たとえば、最初の出会いやダンスシーンも、描かれているシーンのなかで『なぜカナコが長津田を受け入れたのか』を表現しないといけないし、そこに説得力がないといけない。お客さんが見ていない時間も含めて、長津田たちがどう生きてきたか、そのあたりの解像度をちょっとでも上げられたらいいなと思っていました」

――ふたりのやりとりのなかで、中川さん的に印象的だったシーンは?

中川「大人になって再会する場面があるんですけど、そこが自分的にはすごく心地良い時間が流れていたなと思います。若いときって横並びで同じ方向を向いて、走ったり、楽しいことをしたりしていたけど、大人になると、ふたりは向かい合って座ってる。腰を据えて話す照れくささもあるし、お互い外見が変わったけど、でもやっぱりあの頃の空気感にもなる。そのなかで、喉に引っかかっている一言が最後の最後まで出なくて、朝になっちゃう...というあのシーンが、ふたりの10年間の関係性がより出ている場面だなと思いました」

映画「早乙女カナコの場合は」に出演する中川大志
映画「早乙女カナコの場合は」に出演する中川大志
映画「早乙女カナコの場合は」で主演を務める橋本愛
映画「早乙女カナコの場合は」で主演を務める橋本愛

――本作では10年の物語が描かれます。そこで、おふたりの10年前のことについてお聞かせください。当時、10代で俳優の仕事を始めていた橋本さんと中川さん。どんな状況で、どんな思いで俳優をされていたのでしょうか?

橋本「ちゃらんぽらんで、ぐっちゃぐちゃで、カオスでしたね。中学2年生ぐらいからお仕事を始めたのですが、割とすぐにお仕事が決まって、自分の存在も早いうちから多くの人に知られることになったので、スキルもないし、心の準備もできていないまま世に出てしまい...。それはそれはデンジャラスな日々でした(笑)。数年は、下積みがない状態でも、どこか自分の存在だけで面白がってもらえていたんですけど、『このままじゃ絶対続かないだろうな』と思っていましたね。
それこそ、高校生とか10代後半だった10年前は、ちょうどその壁にぶつかりまくってる時期です。できない自分もいたし、もうやりたくないと思う自分もいたし、でも認められたいと思う自分もいたし...まさにカナコみたいに、どう見られたいか、どうありたいか、何をしたいのか、すべて矛盾していて、全部がぐちゃぐちゃに絡み合って、何の筋も通っていませんでした。ひとりの人間としても、俳優としても、本当に未熟な時期でしたね」

中川「当時の僕は、めちゃくちゃ生意気で、本当に調子に乗っていました。いま、自分みたいな16歳がいたら絶対に許さない!」

橋本「(笑)」

中川「当時、学園ものをよくやっていたんですけど、生徒役のなかでも最年少で、一番下にいるのが居心地良く、楽しんでやっていました。生意気ながらお兄さん、お姉さんたちの世代と一緒にやっていたのですが、よくもみんなあんなに可愛がってくれたなと思います(笑)。ただ、中学生ぐらいのときに『大人になってもこの仕事をするだろうな』と思い始めていたんで、10年前の高校生のときには、自分のなかで『現場に立つこと』への意識は強く持っていました」

――お話ししていただいた時期から10年が経ちました。自身の変化、成長を感じる部分はございますか?

橋本「まるごと変わりました。昔は自分の愚かさや醜さを悪だと思って、『なんで自分は...』と卑下して否定していたんですけど、今は逆に自分の愚かさやズルさにオリジナリティを見出すようになりましたね。世の中には、悲しい、辛い、楽しい、嬉しい作品はいっぱいあるけど、ずるい作品ってあまりないなと思ったんです。『もしかしたら、愚かさやズルさって、すごくプライベートでクリエイティブなのかもしれない』と思えてからは、自分自身の愚かさやズルさを面白がれるようになれましたね」

中川「10代後半までは、周りと比べることが多かったし、どう見られるか不安だったし、自信もなかったんですよ。でも、20代になったあるとき、自分の通ってきた道筋の点と点が一本のキャリアとしてつながって、『中川大志』というひとりの俳優としてのカラーになり、評価してもらえた瞬間があって...。『結局はどうやったって人と同じことにはならないんだな』と思えたとき、少し解放された気がしました。もちろん、一つひとつ大切にはしているんですけど、すべてが通過点で、うまくいかなくても、最終的には道になって、僕がやってきた歴史になるんだな、と思うと、より自由になれた気はしましたね」

文・写真=浜瀬将樹

映画情報

映画「早乙女カナコの場合は」
公開日:3月14日(金)
原作:柚木麻子
監督:矢崎仁司
出演:橋本愛、中川大志、山田杏奈、臼田あさ美、中村蒼ほか
(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会
配給:日活/KDDI