橋本愛が愛に盲目でどこか不安定な女性を演じる、映画「熱のあとに」
2025.2.27(木)

2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされ、4年の歳月をかけて映画化されたのが橋本愛主演の「熱のあとに」だ。監督は諏訪敦彦、黒沢清に師事し、本作が商業映画デビューの山本英。脚本のイ・ナウォンと共に構想を練り、第28回釜山国際映画祭、第60回台北金馬映画祭へ正式出品された。オープニング(予告動画にも収録)は建物の床に倒れている男性を返り血を浴びたヒロインが見下ろし、醒めた表情でタバコを吸うと、消火用のスプリンクラーから大量の水が降り注ぐという衝撃映像。主人公の沙苗を演じた橋本は「桐島、部活やめるってよ」で第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(主人公とアイドルユニットを組む役)で脚光を浴び、公開間近の主演映画「早乙女カナコの場合は」で、のんと再び共演を果たした。主人公の服役後を描いた本作では"愛"について語り、激情を奥底に抱えて生きる女性という難役に挑戦。沙苗の夫で林業に従事する小泉健太を演じるのはドラマ「新宿野戦病院」で橋本と共演した実力派、仲野太賀。湖畔で暮らす夫婦の前に突然現れる隣人、足立を木竜麻生が演じている。

(C)2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha
■全てを捧げるのが愛と言う主人公になりきった橋本の強烈な演技
出所した沙苗(橋本)は母親の勧めにより、お見合いをし、銀行員の友人の代役としてレストランにやってきた健太(仲野)と出会う。頑なな表情で眉間に皺を寄せている沙苗に健太は「何で、そんな死んだ目してるんっすか?」と問いかける。母親が席をはずした後、沙苗は自分の過去を健太に打ち明け、やがて沙苗は林業に携わっている健太と結婚。湖のそばのペンションをリフォームして新婚生活を送ることになる。のちに有機野菜の栽培をしたくて引っ越してきた足立(木竜)の存在によって、沙苗の心はかき乱されるのだが、そうでなくても新たな人生を踏み出したはずなのに健太のことを「小泉さん」と名字で呼ぶ沙苗は暗く不穏なオーラを放っている。定期的に通う東京の医者でカウンセリングを受ける時の沙苗の発言は心の中を浮き彫りにするもの。事件後の自分自身を"臨時的に生きている"と表現し、「全てを捧げるからこそ愛は永久不滅。そのほかは愛に近いもの」と断言する。地に足がついていないような歩き方、時折、見せる人を射るような鋭い視線。何をしでかすかわからないような危うさを持つ主人公を橋本が全身で表現している。

(C)2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha
■登場人物のキャラクターが恋愛観について考えさせられる
台詞劇のような側面も持っているのが本作だ。沙苗、健太、足立の過去の背景は断片的な場面でしか語られず、発する言葉をヒントに見る側の想像力に委ねられる。愛の話になると雄弁になり、時に感情を制御できなくなる沙苗は盲目的な側面を持つ女性。平和主義者の健太とは対照的ゆえ、ひたすら妻に翻弄されていくようにも思えるが、沙苗の過去を知って目が死んでいることに納得し、「殺そうとしたけど、逆に殺されたんだな」と返すあたり、実は鋭い感性を持っているという解釈もできる。そして、沙苗に「現実をバカにしないでよ」と苛立ちをぶつける足立もまた愛に葛藤している。愛について問いかけを残す本作、仮面をつけたような美しく寡黙な顔とエキセントリックな顔を使い分けた橋本の演技にゾクゾクさせられる。
文=山本弘子
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