ハンサムの代名詞アラン・ドロンの移ろいに注目!静かなサスペンス映画「太陽が知っている」
2025.1.23(木)
アラン・ドロンといえば、世界を代表する名優だ。フランスの俳優で、二枚目の代名詞として日本でもよく知られている。2024年8月に逝去した際には、映画界で多くの惜しむ声が聞かれたのは記憶に新しい。
彼の代表作である「太陽がいっぱい」ではまさにハンサムという印象がほとばしるが、同じ"太陽シリーズ"で、モーリス・ロネと再共演した「太陽が知っている」でもたらすイメージは全く異なる。
南仏でバカンスを過ごすジャン=ポール(アラン・ドロン)と恋人のマリアンヌ(ロミー・シュナイダー)。そこへ友人ハリー(モーリス・ロネ)が娘のペネロープ(ジェーン・バーキン)を連れて訪れる。売れない作家のジャン=ポールは、音楽業界の成功者ハリーへの劣等感と、彼とマリアンヌがかつて恋人だったことへの嫉妬で心がざわめいてゆく。四角関係からゆっくりとサスペンスに変化していく作品となっている。
その中で主人公のポールを演じているのがアラン・ドロン。作家であり、豪華なバカンスを過ごしているわけだから、それなりに成功していると推測できるが、どこか"ダメ男"感が漂う。虚ろな表情や曖昧な返事などで最大限に頼りなさを表現しつつ、それでも中年としてはハンサム過ぎるゆえに女性には困らないというキャラクターは、まさにアラン・ドロンだからこそ成り立つと言えるのではないだろうか。
ゆらりゆらりとした時間が続く中、最後の30分間で訪れるサスペンスがやはり見どころのひとつ。ポールとハリーがプールサイドで揉めて、ポールはハリーを溺死させて殺してしまう。全くの熱を感じない無表情で、何度も友人を沈めるドロンの姿は恐ろしく、静かな憎悪を十分に感じられる。何度も苦悶の表情を浮かべるモーリス・ロネの演技も見事なこともあり、この作品のハイライトともいえるシーンに仕上がっている。
この長回しによる殺人シーンが作品のピークではあるのだが、その後のポールを観察していると、小さな変化も見て取れることが興味深い。友人が死んだばかりであるはずのポールだが、どこか生き生きとした様子を取り戻し、食欲も旺盛に。しかし、警察に疑いの目を向けられると再び不安な顔を見せ、ある種協力関係にあったマリアンヌにさえ自身が殺人に手を染めたという本当のことは告げていない。マリアンヌの心が離れていくのを敏感に察知し、繋ぎ止めようとするポールは男として情けなさも感じてしまうが、だからこそリアルにも思える。
ドロン同様に目で追ってしまう存在となっていたのがロミー・シュナイダー。ポールの恋人でありながら、ハリーの元愛人というキャラクターでもあるマリアンヌは一言で言えば共感しづらい。しかし、ポールの犯行後に、しっかりと観察していたということが明らかになり、マリアンヌはどう動き、何を考えているのかと、気づけば想像してしまっている。それだけ瞳や表情で演技をしていたということの証明であり、特に後半はもう一人の主人公として機能しているように感じた。
結局、2人に及んだ警察の捜査もうやむやに終わり、なんとも言えないモヤモヤとした感情が心に残る。そこで思い出すのがこの作品の原題が「La piscine(プール)」となっていること。その名の通り、作品の大半に水面が映し出されていることが印象的だが、それ以外の意味もあるのではないか。ゆらゆらと揺れる水面のようにだらりとした結末はどこか示唆的で、興味深い味わいを残している。
文=まっつ
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