宮崎あおいが「篤姫」の後に見せた秀逸な母娘のドラマ...名優・大竹しのぶとの「魂の触れ合い」も胸を打つ贅沢な演技合戦
2023.3.4(土)
辻村深月のベストセラー小説を原恵一監督がアニメ映画化した「かがみの孤城」で、悩み多き子供たちを優しく包み込む先生役を演じている宮崎あおい(※「崎」は正しくは「立さき」)。原監督作品へは「カラフル」(2010年)、「はじまりのみち」(2013年)に続いて3作目となるが、他にも数々の名監督から信頼を寄せられる存在として活躍を続け、2023年も前田哲監督が浅田次郎の時代小説を映画化する「大名倒産」や、坂元裕二脚本のNetflix映画「クレイジークルーズ」など話題作が控えている。
映画女優として多彩なキャリアを誇っていた宮崎は、2008年のNHK大河ドラマ「篤姫」で堂々と主役を務め、幅広い世代から支持される国民的女優へと成長。そんな中で宮崎が、初々しさと自分でもどうしようもない心の葛藤を見事に体現しているのが、大竹しのぶと母娘役で初共演を果たした「オカンの嫁入り」(2010年)だ。
(C)2010「オカンの嫁入り」製作委員会
第3回日本ラブストーリー大賞ニフティ/ココログ賞を受賞した人気小説を、「そこのみにて光輝く」(2014年)の呉美保監督が映画化した本作。ずっと母ひとり、子ひとりで生きてきた母娘だが、ある日突然に母親・陽子(大竹)が、金髪リーゼントの青年・研二(桐谷健太)との再婚を宣言。娘の月子(宮崎)が動揺するさまを、ユーモラスかつ温かく描く家族ドラマだ。
(C)2010「オカンの嫁入り」製作委員会
本作では、月子を演じる宮崎のふてくされた表情が大きな見どころ。「お母さん、この人と結婚することにしたから」とあっけらかんと言い放つ陽子の態度が気に入らず、家を飛び出してしまう月子だが、まるで反抗期のような彼女の言動は、母を取られてしまうという嫉妬と悲しさからくるもの。実は3年前から母と研二は付き合っているという意外な事実まで判明し、ぷんぷん怒る月子がなんともいじらしく、愛おしさも込み上げてくる。
(C)2010「オカンの嫁入り」製作委員会
外見とは裏腹に、真面目で料理上手、月子とも打ち解けようと明るく接する研二の人柄の良さに、頑なだった月子の気持ちも和らいでいくのだが、その雪解けを宮崎が繊細に表現している。
また次第に月子が抱えている心の傷も明らかとなるなど、宮崎は母を慕う娘としての表情と、つまずいた大人の葛藤までを演じ切っている。月子の素直で剥き出しの感情が見えてくる本作は、宮崎のピュアな透明感がキラキラと輝く1作としておすすめしたい。
(C)2010「オカンの嫁入り」製作委員会
そして日本を代表する女優である、大竹と宮崎の演技合戦を堪能できることも、改めて本作を見直したい理由の1つ。母娘の想いがぶつかり合うクライマックスは、2人から溢れ出す熱情に釘付けとなり、その迫力と魂の触れ合いに息を呑んだ。実力派俳優が顔をそろえた、笑いあり、涙ありの感動作をぜひ楽しんでほしい。
文=成田おり枝
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