唐沢寿明&鈴木京香が仕事に対する信念を笑わせながらもていねいに表現した「ラヂオの時間」
2024.8.18(日)
9月8日(日)に日本映画専門チャンネルで放送される、脚本家・三谷幸喜の映画監督デビュー作「ラヂオの時間」(1997年)は、生放送のラジオドラマ制作にまつわるドタバタを描いたコメディー作品だ。テンポのよい展開、絶妙な笑いが小気味よい三谷幸喜の代表作となった。
物語の舞台はラジオ局。生放送前にラジオドラマのリハーサルが行われる中、初めて書いた脚本が採用された主婦・鈴木みやこ(鈴木京香)は緊張しながらその様子を見守っていた。順調かと思われていたが、急に主演女優の千本のっこ(戸田恵子)は名前が気に入らないと言い始める。事を荒立てたくないプロデューサーの牛島龍彦(西村雅彦)は脚本の変更を依頼するが、次々と変更が加えられ、辻褄を合わせているうちに物語は壮大なスケールに。そして本番、生放送中も予想もしない出来事が次々と起こり、番組を成り立たせようとディレクターの工藤学(唐沢寿明)は奔走する。

個性的なキャラクターが織り成す物語の面白さはもちろんのこと、注目を集めたのは豪華キャストの演技合戦。ディレクター・工藤を演じた唐沢寿明や新人脚本家・みやこ役の鈴木京香ほか、西村雅彦(現・西村まさ彦)、戸田恵子、井上順、布施明、細川俊之といった面々が一堂に会してテンポのいい会話劇を繰り広げる。
なかでも冒頭5分間のリハーサルのシーンはワンカット長回しで撮影されており、その完成度の高さは圧巻。俳優の巧みな演技力により一気に物語に引き込まれる。
そんな誰もが主役級の群像劇である本作の主人公は唐沢寿明が演じる工藤。その場しのぎが得意な上司のもとで働くサラリーマンディレクターで、本番前に将棋を指すなど仕事に対しての緊張感は持っていない。ただ、作り手としてのプライドを持ったみやこと接することで次第に自分の中に眠っていたディレクターとしての矜持に気づいていく...。

物語が進むにつれて変化していく心の動きを自然に見せていく唐沢。コメディー作品だからといって決してオーバーに表現しないことで感情移入しやすく、いつの間にか彼中心の物語になっていく。番組を成立させるためにラジオ局の廊下を、いかにも業界人といったいでたちの工藤が全力疾走する姿は胸をアツくさせる。
そして工藤の心を動かした、鈴木京香演じるみやこも魅力的なキャラクター。初めて見る世界に最初こそ目が泳いでいたが、自分が書いた脚本が改変されるにつれて作家としてのプライドが表面化、物語のヒロインを守るために強固な態度を取っていく。
主婦としての自信のなさや緊張している演技はもちろんのこと、豊かな表情で芯の強さを表現しつつも笑いどころをたくさん作っていくのは、コメディエンヌとしても定評がある鈴木ならでは。三谷幸喜脚本のドラマ「王様のレストラン」(1995年、フジテレビ系)でも見せた、真面目なのに笑えるというキャラクターづくりは本作でも活かされており、みやこの仕事に対する真摯な姿と、ラジオドラマに関わっている業界人たちのなれ合いの姿の対比がより明確に伝わってくる。
誰の視点で見るかで話が変わってくる群像劇。仕事に対する信念を見事に表現している唐沢寿明と鈴木京香に注目して見るとまた違った楽しみが待っている。
文=玉置晴子
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