マイルズ・テラー主演「セッション」に荒々しく刻まれた 最高の音楽を極めるための苦痛と覚悟
2023.3.6(月)
■監督の挫折経験から生まれた、「格闘技」のような映画
「ラ・ラ・ランド」(2016年)、「バビロン」(2022年)のデイミアン・チャゼル監督は、高校時代にジャズ・ドラマーを志し練習に打ち込みながらも挫折した。その彼が無名に等しかった28歳の頃に撮影した「セッション」(2014年)は、音楽を志す者が持たなければならない覚悟が描かれる。
名門音大へ入学し、ドラマーとしての成功を夢見るニーマン(マイルズ・テラー)と、容赦なく手を出し、物を投げつけるイジメ同然の指導で演奏技術を叩き込む鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)。ミュージシャンが「セッション」するように2人が衝突し合い、ニーマンの才能が磨かれていく。全身全霊でドラムを叩く若者と、それを睨みつけ、罵倒する教師の対峙は「格闘技」のような激しさだ。
⒞2013WHIPLASH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
チャゼル監督は自らの経験を重ね合わせ、「最高の音楽を極めるために払われる犠牲、肉体的な苦痛を描きたかった」と話している。心ではなく、肉体のぶつかり合いで成長する過程を描いた音楽映画は斬新で珍しい。
主人公はニーマンだが、観る側にとってより印象に残るのはフレッチャーのほうだろう。演じたシモンズはサム・ライミ監督の「スパイダーマン」3部作などで脇を固めるバイプレーヤー。チャゼルの脚本に魅了され製作を担当したジェイソン・ライトマンが、「JUNO/ジュノ」(2007年)など自身の監督作の常連だったシモンズを推薦し、起用された。
シモンズは、才能を開花させるために相手を破滅ギリギリまで追い詰める男を体現し、アカデミー賞助演男優賞に輝く。脚本を読み込んだシモンズは「フレッチャーの哲学は理解できる。むしろ感心さえする」と語ったそう。もちろん彼は声を荒らげ、暴力を振るうような人ではないが、強面と黒シャツ姿、鍛えられた二の腕は役柄の迫力にぴったり。
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一方、指導での屈辱に傷つくニーマンは、それでも鬼教師に立ち向かう。ドラムを極めるために恋人と別れることも厭わず、追い詰められた苦しみの中で成功を手にしたいと願うのだ。練習シーンで、テラーは「脚本に「ドラムが血で滲むほど叩き」という表現があり、どうすべきか困った」という。ところが気づくと、本当に手から血が噴き出すほど叩き続けていた。監督はそうなることを予見して脚本を書いていたのだろう。
その姿を目の当たりにしてもフレッチャーはニーマンを罵倒するが、シモンズ自身は「役に対する熱意の表れだと思う。素晴らしい集中力だった」と称賛した。チャゼル監督の挫折経験に裏打ちされた脚本を、キャストがそれぞれの向き合い方で演じきっている。その演技に監督も大満足だったそう。
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■嫉妬、憎しみ、怒りを超越する師弟の「セッション」
フレッチャーの行動を見ているうちに疑問が湧いてきた。教師というだけでなく、ミュージシャンでもある彼の心のどこかに、ニーマンの持つ若々しい才能への嫉妬はなかったのだろうか。
彼が嫉妬や憎しみからニーマンを傷つけたように見える描写がなくもない。だが、それは才能を持つ若者への嫉妬というよりも、純粋に才能の開花を見たいからであって、傷つけたいという思いなどないのではなきか?だから地獄のような指導に徹することができるのではないか?それとも...。
その答えは、ニーマンの怒りが噴出するクライマックスのセッションから読み取れる。ステージではフレッチャーへの怒りと不満を溜め込んできたニーマンが才能を開花させ、鬼教師を手玉にとるかのように、ドラムと一体化したように激しく叩きつける。
音楽を極める師弟の関係を、闘いとして描いた映画はこれまで見たことがない。まさに監督が語った「最高の音楽を極めるために払われる犠牲、肉体的な苦痛」を描ききったからこそ、「すごいものを見てしまった」という感動が残るのだ。
文=渡辺祥子
渡辺祥子●1941年生まれ。最近面白かったのは韓国映画「オマージュ」。仕事に恵まれない女性監督ジワンが50年前の韓国初の女性監督ジェウォンの作品の欠落した部分を探す物語。ジワンは生活感十分の中年女優、ジェウォンは美しく風情たっぷり。この映画を撮った女性監督はどちらに似ているのかなぁ?日本経済新聞、週刊朝日、ぴあなどで映画評を執筆。
放送情報【スカパー!】
セッション
放送日時:2023年3月11日(土)23:30~、26日(日)14:30~
チャンネル:スターチャンネル1
(吹)セッション
放送日時:2023年3月14日(火)23:00~、21日(火・祝)14:00~
チャンネル:スターチャンネル3
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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