美空ひばりの子役時代の出演映画「母を慕いて」で見る、彼女の大スターたるゆえん
2024.7.23(火)
不世出の歌姫、美空ひばり。美空ひばりといえば、荘厳なステージングと圧倒的な歌唱力で魅せる「歌謡界の女王」と呼ばれた頃の姿を想起する方がほとんどだろう。だが、9歳でデビューしたひばりはすぐさま人気となり、3年後には映画に初出演。12歳で映画の主演を果たした生粋の映画スターで、終戦後の昭和の日本を元気にした立役者の一人だ。
(C)1951 松竹株式会社
そんな彼女は、14歳の時に出演した映画「母を慕いて」(1951年)において、日常のシーンでの誰からも愛されるかわいらしさと、歌唱シーンでの圧倒的な存在感から生み出されるギャップで、"大スターたるゆえん"をまざまざと見せつけている。
この映画は、阿木翁助の原作を斎藤寅次郎監督が映画化したもので、親子の絆、家族愛を描いたヒューマン・ドラマ。瀬戸内海の小島で、勘三(坂本武)・おつな(沢村貞子)夫婦に育てられた弥生(ひばり)は、生みの母で、京都の祇園に料亭を持った夏江(坪内美子)に引き取られる。弥生が夏江の元で舞妓になることを夢見て幸せに暮らしていると、ある日、実の父・進(日守新一)が弥生を引き取りにやって来る。夏江は「弥生を良家の娘として学問をさせて世に出したい」という思いから、嫌がる弥生を説得し、東京の進の元へ送り出す。だが、東京での暮らしは弥生にとって生きづらいものだった、というストーリー。
ひばりは、大人の勝手な事情で振り回されながらも希望を持って健気に懸命に生きる少女を熱演。瀬戸内海の島、京都、東京とめまぐるしく環境が変わっていくという早い展開の中、弥生が変化していくさまを繊細に描いて、少女の芯の強さや愛情深さ、忍耐強さなどを表現している。
(C)1951 松竹株式会社
中でも、ポイントは彼女の持ち前の愛らしさだ。ハッとするような周りを緊張させる美人ではなく、観る者を安心させて思わず愛でてしまうかわいらしさに、つい目がいってしまうし、誰しもが親心を抱いてしまう。この天性の"人たらし"な部分が、弥生を"かわいそうな子"に見えないようにしていて、人情喜劇としての屋台骨を支えている。一方で、鼻歌や歌唱するシーン、舞妓の踊りを踊るシーンでは、ハンパないオーラを発出。"愛らしい女の子"からガラリと変わって"桁違いの存在感を放つアーティスト"に変貌する。
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このギャップは必見!美空ひばりのスター性が一番感じられる場面であるし、画面を通してオーラが変わる瞬間を目の当たりにできるからだ。役柄としても、夏江に「素晴らしい舞妓にしたい」という夢を抱かせるほどのポテンシャルを持つ娘役でもあるので、「ただの親バカではなく、料亭を持つ女性の眼鏡に適う」という意味でも、説得力をもたらしている。
コンサートでの圧倒的な存在感だけで彼女のすごさを分かったつもりになるだけでなく、映像作品の中での普通のシーンと歌唱シーンとのギャップから、美空ひばりという大スターの大スターたるゆえんに触れてみてほしい。
文=原田健
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