妻夫木聡&池松壮亮が共演し、他人事を自分事として考えさせてくれる映画「ぼくたちの家族」
2024.7.6(土)
作家・早見和真の実体験を元にした小説を、「舟を編む」の石井裕也監督が映画化した「ぼくたちの家族」。2014年に公開された今作は、母親が脳腫瘍で余命1週間と宣告されたのをきっかけに、バラバラになっていた家族が集まり、"悪あがき"という名の結束を固める物語だ。母の玲子を原田美枝子、父の克明を長塚京三、長男の浩介を妻夫木聡、次男の俊平を池松壮亮が演じている。キャスティングには石井監督も参加し、最も信頼のおける俳優陣を選んだという。
4人が演じる若菜家は、一見どこにでもいる家族だ。両親はまだローンの残る郊外の一軒家に残り、長男は結婚して独立、次男も大学進学を機に都心で一人暮らしをしている。克明は小さな会社を経営しているが少々頼りなく、その分、マイペースな玲子が生活を支え、家族をつなぐ役割を果たしている。浩介は長男らしい不器用さと責任感の強さを持ち、俊平は次男らしい要領の良さと冷静さを持ち合わせている。そんなごく普通の家族に、青天の霹靂が訪れる。
普段からおっとりマイペースな玲子の記憶が突如、心許なくなったのだ。初孫を祝う席で、妻の、母親の明らかな異変を目の当たりにした克明と浩介は、すぐに玲子を病院へ連れていく。そこで大きな脳腫瘍があることが判明する。しかもこの1週間が山だという。このような状況に陥った場合、誰もがそうなることだろう。克明も浩介も突然のことに言葉を失い、うろたえながらも今すべきことを考えていた。そんななか、実感がないのか、大物なのか、次男の俊平だけはユーモアを忘れず、母親の急激な変化にも臨機応変に対応していく。
(c)2013「ぼくたちの家族」製作委員会
そして、この冷静な次男が実家の金銭事情もつまびらかにしたことで、家族は母親の病気だけでなく、金の問題にも立ち向かうことになる。長男と次男はまだ浮ついている父親をよそに結束を誓い合うのだが、この際の空気感が素晴らしいのだ。先にも述べたようにキャラクターの異なる兄弟の間に、"ああ、家族ってこういう感じだよな"という空気が漂う。それまで積み重ねてきた時間までも感じさせる空気感が流れるのだ。
これは2人の演技力と演出の妙が生み出した奇跡というと大げさだろうか。だが、妻夫木と池松をはじめとする登場人物全員の演技が素晴らし過ぎて、映画というフィクションを見ているにも関わらず、ドキュメンタリーを見ている感覚に陥る。克明や浩介のように突然のことにうまく対応できなかったり、言うべきことを素直に言えなかったりする人間のリアリティに加え、病院に集った時の父親と兄弟のそっくりな立ち姿にものすごい説得力があるのだ。
映画や文学は自分が生きている次元とは別のところに連れて行ってくれたり、他人事を自分事として真剣に考えさせてくれたりするところが利点だと思うが、この作品はまさに後者。対処法を必死に考えているのに病状の悪化した母親に忘れられてしまう長男の喪失感や頼りない父親への憤り、あまりにも最悪の家計に直面した際の次男の脱力感が、妻夫木と池松の演技からひしひしと伝わってくるので、自分ももっと親と会話しないとな、実家のお金のことも把握しておかないとな、と考えさせられるのだ。彼らのリアリティに溢れた演技が、エンタテイメントでありながら現実も見つめさせてくれる傑作だ。
文=及川静
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