宮迫博之が自然な演技で仲里依紗と平凡な親子を演じた映画「純喫茶磯辺」
2024.7.3(水)
宮迫博之と仲里依紗が親子役を演じる映画「純喫茶磯辺」(2008年)は、喫茶店を開いた父親とその娘を軸に展開する人情コメディーだ。宮迫が何事にもテキトーなダメ親父を、そんな父親に反発する年頃の高校生を仲が演じる。
高校生の咲子(仲)は両親の離婚後、工事現場で働く父親の裕次郎(宮迫)と2人で暮らしていた。だが祖父が亡くなり遺産が入ったことで、裕次郎は仕事を辞めてしまう。見かねた咲子は父をとがめるものの、いい加減な性格の裕次郎はモテたいという理由だけで喫茶店を開くことに。店のダサさに辟易しつつも、咲子は嫌々ながら店の手伝いをすることになる。
(C)2008「純喫茶磯辺」製作委員会
本作は「ヒメアノ~ル」(2016年)や「空白」(2021年)などで知られる吉田恵輔監督(※「吉」は正しくは、つちよし)が初期に手がけた作品だ。この作品の白眉は、映画であることを忘れるほどの素朴さと、その中で生み出されるオフビートな笑いにある。
一見平凡な日常を淡々と描いているように見えるが、そこへクセの強い人物が次々と登場し、次第に人間のおかしみがにじみ出てくる作品となっている。その根幹を支えているのが、主演である宮迫博之と仲里依紗の絶妙な演技だ。
(C)2008「純喫茶磯辺」製作委員会
宮迫が演じる裕次郎の魅力は、ちょうどよく嫌らしくないダメさ加減にある。彼の言動は何もかもが行き当たりばったりで、美人なアルバイトの女性に鼻の下を伸ばすなど、娘の咲子がため息をつくのも頷けるいい加減っぷりだ。
しかし宮迫はそんな裕次郎を力みのない自然な雰囲気で表現しており、なぜか嫌いになれない愛すべきダメ親父の姿を完成させている。見ているうちに彼の物言いや間の取り方が心地よくなってくるから不思議なものだ。
対する仲里依紗は、父親への反発やカッコいい異性へのときめき、そして子供と大人の間という立場で現実と相対する揺らぎを絶妙に捉えた演技が印象深い。みずみずしさがありつつも年頃の高校生が持つ空気感を的確にカメラの前で表現しており、俳優としての完成度が感じられる。
劇中で何度か差し挟まれるナレーションは咲子の独白に近いものになっているが、わざとらしさがまったく感じられない点も高く評価されるべきだろう。
本作は引きのカットが多く、長回しの中で登場人物たちがテンポのよい会話劇を展開する。そんな演出の妙と役者の技量が相まってか、宮迫と仲の何気ない会話を見ていると、まるで本物の家族のホームビデオを見ているかのような不思議な感覚に陥ってしまう。
そんな会話劇を軸にしておかしみのある人間模様を描いている点がこの作品の魅力だ。宮迫と仲が演じる平凡な父と娘の関係も、大小の出来事を通じて少しずつ色を変えていく。最後にはふっと笑みがこぼれるような、いい親子だなと思える2人の姿を見届けてもらいたい。
文=元永真
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