吉永小百合のキュートさと大泉洋の人間味溢れる演技に浸れる、映画「こんにちは、母さん」
2024.5.22(水)
永井愛の戯曲「こんにちは、母さん」を山田洋次監督と吉永小百合のタッグで映画化。本作は「母べえ」(2007年)、「母と暮らせば」(2015年)に続く「母」3部作映画の3作目でもあり、現代の東京・下町に生きる家族が織りなす人間模様を描いた人情ドラマとなっている。1969年にスタートした「男はつらいよ」シリーズからずっと温かな家族の姿を描き続きけてきた山田監督が、変化の大きなこの令和の時代に"変わらない親子"の絆を描き出す。
⒞2023「こんにちは、母さん」製作委員会
主演を務めるのは、50年にわたり数々の山田作品に出演し、日本映画界を牽引してきた俳優・吉永小百合。映画出演123本目となる今作で、下町に暮らす母・神崎福江を演じる。そして、福江の息子・昭夫を演じたのが、舞台から映画、ドラマ、さらにはそのユニークキャラクターでバラエティーでも活躍中の愛され俳優・大泉洋。彼は本作で第47回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。俳優としての存在感がますます際立っている。
物語の舞台は、隅田川が流れる東京の下町。大手企業の人事部長として働く神崎昭夫は、職場ではリストラ問題、家では妻との離婚問題や大学生の娘(永野芽郁)との関係に心をすり減らす日々を送っていた。そんなある日、昭夫は久々に母が暮らす下町の実家を訪れることに。すると、そこには、いつも割烹着を着ていた母が髪を染め、オシャレをしている姿が...。母は近所の仲間たちとボランティア活動に精を出し、さらには恋までしているというのだ。その事実を知り、実家にも自分の居場所がなくなってしまったと戸惑う昭夫だったが、母と触れ合いや心温かな下町の人たちとの出会いを通して、自分が見えなくなってしまっていた本当に大切なものに気が付いていく。
⒞2023「こんにちは、母さん」製作委員会
映画を観てなによりも驚くのは、やはり吉永のキュートさだろう。牧師・荻生直文(寺尾聰)にピュアな恋心を抱いている福江の瞳はキラキラとしていて、その真っ直ぐな想いがスクリーン越しにもひしひしと伝わってきて、甘酸っぱい気持ちになった。年齢を重ねてなお、瑞々しく、透明感あふれる演技を見せる吉永。一方で、息子の前で見せる母の顔は優しく温かくて、よき日本の母という言葉がピッタリの懐の深さを感じさせる。だからこそ、クライマックスで福江が息子にぶつける本音が、苦しいほどに胸を打つ。吉永小百合が生み出した福江というキャラクターは、最初から最後まで、ひたすらに魅力的なのだ。さまざまな表情を発見し、彼女の俳優としての凄みをたっぷりと感じることができた。
もちろん、大泉の素晴らしさにも言及せずにはいられない。悩んだり、怒ったり、本作で見られる、大泉の人間味溢れる芝居はやはり最高である。コメディーも得意としている彼だが、人間の抱える孤独や悲哀を表現するのもまた、抜群にうまい。昭夫はある種どこにでもいる会社員なのだが、リアリティーの詰まった細やかな芝居によって、昭夫というキャラクターに愛おしさを感じずにはいられなかった。大泉という俳優の吸引力から逃れる術はないのだ。
⒞2023「こんにちは、母さん」製作委員会
偉大な俳優たちが名監督・山田洋次と紡ぐ物語。令和を舞台にしながらも、どこかノスタルジックな情緒を感じることができ、見終わった後には温かな感動で包まれることだろう。吉永、大泉が親子を演じ、日本映画史に残るこの感動作に、ぜひゆっくりと浸ってもらいたい。
文=鳥取えり
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