月組トップスター・月城かなと演じる菅原道真の成長譚「応天の門」
2024.3.27(水)
灰原薬の漫画を舞台化した「応天の門」。脚本・演出は田渕大輔。原作の漫画は菅原道真と在原業平のコンビが事件を次々と解決していくというバディもので、短編のエピソードが続いていく形式だ。タカラヅカ版は原作の基本構成を抽出し、華やかさを加味しながらわかりやすくまとめられている。
平安初期、天皇を取り巻く貴族たちは権力闘争に明け暮れ、娘を入内させることに躍起になっている。帝の妃となった娘が男子を産み、その子が帝となれば、背後で権力を握れるからだ。いわゆる摂関政治である。
漫画「応天の門」で描かれるのは、清和帝(千海華蘭)の妃の座をめぐる藤原氏同士の争いである。娘の高子(たかこ・天紫珠李)を入内させようと躍起になっているのが藤原良房(光月るう)・基経(風間柚乃)父子だ。だが、肝心の高子は在原業平(鳳月杏)と恋仲にある。
いっぽう娘の多美子(花妃舞音)が清和帝に気に入られ、一歩リードしているかのように見えるのが、良房の弟の藤原良相(よしみ・春海ゆう)である。だが、多美子の兄、常行(ときつら・礼華はる)は妹の身を案じている。
タカラヅカ版「応天の門」は、この多美子の入内に至る経緯を物語の主軸に置いている。これを阻みたい藤原良房・基経の策謀に、在原業平と菅原道真らが立ち向かうという構図である。
原作/灰原 薬「応天の門」(新潮社バンチコミックス刊)⒞宝塚歌劇団 ⒞宝塚クリエイティブアーツ
主人公の菅原道真を演じるのは、月組トップスターの月城かなと。端正な美貌と確かな演技力に定評のある男役である。残念ながら、本年3月〜7月に上演される「Eternal Voice 消え残る想い」「Grande TAKARAZUKA 110!」での退団が決まっている。
その月城が、若き日の道真の成長譚に挑む。天才的な学問の才を持ちながらも権力には興味なし、権力者に媚びへつらう人も大嫌い。だが観客は、彼がただのひねくれた少年で終わらないことを知っている。この道真が後に権力の頂点に登り詰め、憧れていたはずの遣唐使を廃止し、太宰府に左遷されるのである。斬新なエピローグは、その後の道真の栄達と転落を暗示しているようにも思える。月城かなとが演じる道真は、そんな未来までも想像させる。
そこに絡むのが、姉御のような昭姫(海乃美月)、兄貴のような在原業平(鳳月杏)、そして後に宿敵となる藤原基経(風間柚乃)だ。3人がそれぞれ別の役割で、道真の成長譚に一役買っていくことになる。
唐からやってきて広い世界を知る昭姫は、包容力を感じさせる女性だ。気は強いが面倒見が良く、難題の解決に力を貸すさまが小気味良い。この役を演じるトップ娘役の海乃も、月城と共に退団することが決まっている。
色恋の経験豊富で、酸いも甘いも噛み分ける在原業平は、まだ青臭い道真とは対照的な男性だ。権力闘争の中での業平の「大人の判断」を道真は受け入れることができず、いったんは袂を分かつが、最後には受け入れ、業平もまた道真によって変わっていく。
また、ただの悪役ではない、葛藤の末に自分を殺して権力に殉じる存在として描かれるのが藤原基経だ。結末、朝議の場に現れた道真と基経が対峙する瞬間、今後を予感させる緊迫感が漂う。
漫画を読んでから舞台を見ると、そのビジュアルが絶妙に再現されていることに驚かされる。また、道真が作った漢詩など古典の一節が至るところで引用されていることも、この作品を奥深いものにしている。これらの古典を参照してから観劇すると、いっそう趣深いものになるだろう。
文=中本千晶
放送情報【スカパー!】
応天の門(’23年月組・東京・千秋楽)
放送日時:4月7日(日)21:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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