花組・柚香光、星風まどからによって生まれ変わった宝塚歌劇「うたかたの恋」('23年花組・東京・千秋楽)
2024.1.31(水)
「うたかたの恋」は、オーストリア・ハプスブルク家の皇太子ルドルフと、男爵令嬢マリー・ヴェッツェラとのマイヤーリンクでの心中事件を描いた物語である。原作はクロード・アネの小説。柴田侑宏が脚本を手がけ、1983年に初演された。以来、7度目の再演となる名作だ。今回の2023年花組版は新たな注目を集めた。なぜなら、往年の名作と称されてきた作品が、このたびの再演で新しく生まれ変わったからだ。
今回の再演はこれまでと違う点が大きく2つある。1つは、演出を担当する小柳奈穂子が「潤色」も手がけたこと、つまり柴田氏の脚本に手が加えられたことだ。そしてもう1つは、30年ぶりに再び宝塚大劇場・東京宝塚劇場(以下、大劇場)で上演されたことである。
幕開けでは、大劇場独自の舞台機構である「大階段」で向き合うルドルフとマリーにいきなり目を奪われる。また、プラーター公園や酒場に集うさまざまな人たちが「ウィーンの民衆」の存在感を感じさせる。全編通じて随所に、大劇場ならではの見せ方の工夫がなされている。
また、この作品の初演から現在までの間に、タカラヅカでは「エリザベート」(1996年初演)という同時代を描いた大ヒット作が生まれている。今や観客の多くが「エリザベート」に重ねてこの作品を見るであろうという状況も、考慮されているように思える。
悲劇の皇太子ルドルフを演じるのは、花組トップスターの柚香光。スタイリッシュな容姿やエレガントなダンスに定評のあるスターだが、繊細に作り込む芝居も魅力的だ。2020年にトップスターに就任して以来、人気漫画を舞台化した「はいからさんが通る」の伊集院忍、古代ローマ史を題材とした「アウグストゥス」のオクタヴィウス、「忠臣蔵」を新たな視点から描いた「元禄バロックロック」のクロノスケなど、多彩な役柄を演じてきた。
⒞宝塚歌劇団 ⒞宝塚クリエイティブアーツ
「うたかたの恋」のルドルフはそんな柚香の本領が発揮される役どころだったと思う。激動の時代とハプスブルク家の重みに押し潰され、壊れていくガラス細工のようなルドルフであった。
一方、トップ娘役の星風まどかは、ヒロインのマリーを地に足のついた女性として演じてみせた。身分違いで、ただ憧れるだけであった男性と、命を捧げるまでの深い関係となっていく。そんなマリーの気持ちの変化にもきちんと焦点が当てられているように感じた。
今回、ルドルフ、ジャン・サルヴァドル(水美舞斗)、そしてフェルディナンド大公(永久輝)と、ハプスブルク家の皇子の、三者三様の生き様が対比される。ルドルフと対照的に自由に生きるジャン・サルヴァドルは、最後の舞踏会でマリーを守るべく、皇太子妃ステファニーの手を取って決然と踊る姿が印象的だ。「二人のために自分にできることは、これしかないのだ」という哀しみも伝わってくるようだった。
「サラィエヴォ事件」の犠牲者として知られるフェルディナンド大公の役を膨らませ「事件前夜」を描いてみせたことは、歴史劇としての厚みを増す効果もあった。やがて彼が第一次世界大戦の引き金を引いてしまう。そうとわかっているだけに、今回の作品の中でのフェルディナンド大公の選択はやるせない。
2023年花組版は今の時代、今のタカラヅカが生み出した「うたかたの恋」であり、これまでの再演版と見比べるのも面白いだろう。
文=中本千晶
放送情報【スカパー】
「うたかたの恋」('23年花組・東京・千秋楽)
放送日時:2月4日(日)21:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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