「中学聖日記」で注目を集めた新進女優・小野莉奈の瑞々しい存在感...冴えない高校生の青春模様が心揺さぶる「アルプススタンドのはしの方」

2024.1.30(火)

TBS火曜ドラマ「中学聖日記」(2018年)で有村架純演じるヒロインの"恋敵"にあたる女子高生役で脚光を浴びると、2021年の大河ドラマ「青天を衝け」では吉沢亮演じる主人公・渋沢栄一の長女・歌子役に抜擢されるなど、ネクストブレイク女優として注目を集めている小野莉奈。

中学生時代からの親友であるYOASOBI・幾田りらとの友情も広く知られており、昨年彼女が出演するトーク番組にサプライズで登場したことも話題に。そんな小野が青春のエモーションを瑞々しい演技で表現し高い評価を得た映画が、2020年に劇場公開された「アルプススタンドのはしの方」だ。

2017年の「第63回全国高等学校演劇大会」で最優秀賞を受賞した兵庫県立東播磨高等学校演劇部顧問による名作戯曲を城定秀夫監督が映画化した本作は、高校球児たちの熱戦を"アルプススタンドのはしっこ"から見つめる冴えない高校生たちにフォーカスした青春ドラマ。

全国大会出場の夢に破れ、応援に駆り出された演劇部員や元野球部員、人付き合いが苦手な帰宅部の女生徒...といった4人それぞれの想いが試合展開と共に次第に熱を帯びていく。

小野は、高校演劇をリメイクした2019年の舞台版から主人公の演劇部員・安田あすは役を続投。渾身の思いで書き上げた舞台が、部員のひかる(西本まりん)のインフルエンザ感染によって上演できなくなったことで"諦めグセ"がついてしまった彼女は、夏の甲子園に出場した母校の応援でも、どこか冷めた眼差しで熱戦を見つめているキャラクターだ。

ひかると共に、よく知りもしない野球のルールをテキトーに解釈したりと、やる気のなさを、気怠そうな態度と会話のテンションでナチュラルに表現した小野。ことあるごとに「しょうがない」と言い捨て、夢破れた演劇への未練を全身に漂わせつつも、熱戦に沸く周囲に感化されて態度が変わっていく様子をフレッシュに演じた。

インフルエンザに感染し舞台を台無しにしてしまったことへの引け目を感じているひかるや、"ベンチウォーマー"の元チームメイトを馬鹿にしながらも野球に未練タラタラの元野球部・藤野(平井亜門)、友だちがいないことに悩みながらも野球部のエースに密かな想いを寄せている帰宅部の宮下(中村守里)――それぞれが悶々とした鬱屈を抱えていた。そして、吹奏楽部部長で成績学年トップだが、優等生なりの葛藤に思い悩む久住(黒木ひかり)も加わり、行き場のない感情を持て余した高校生たちの熱い青春模様が交錯していく。

野球の観戦を題材にしているにも関わらず、試合のシーンが一切映らないというのも、"はしっこ"の高校生への愛情が感じられ、かつ高校演劇へのリスペクトも見て取れる本作。それでも役者たちの熱演によってエキサイティングな試合展開が手に取るように伝わってくる力強さが、この作品にはある。

「諦めた人と、諦めなかった人」というテーマを真摯に描き、青春を謳歌し損ねた人にこそ刺さる作品だけに、同世代の高校生だけでなく大人のハートにも響くこと必至。そのもどかしい青春を全身で体現した小野をはじめとする若手俳優の瑞々しい演技に注目しながら、じっくりと味わってほしい。

文＝HOMINIS編集部

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