トニー・レオンの胸を締め付けるような熱演！香港ノワールの傑作「インファナル・アフェア」

2024.1.24(水)

2023年のヴェネチア国際映画祭で生涯功労金獅子賞を受賞したトニー・レオン。「恋する惑星」(1994年)や「ブエノスアイレス」(1997年)をはじめ、第53回カンヌ映画祭男優賞を受賞した「花様年華」(2000年)ほか、出演した名作は世界的に広く知られ、日本でも高い人気を誇る。近年では、マーベル・スタジオ作品「シャン・チー／テン・リングスの伝説」(2021年)のヴィラン役や、人気ガールズグループ・NewJeansの「Cool With You」のミュージックビデオに出演したことも大きな話題となった。

香港映画ブームの立役者の一人でもあるレオン。そんな彼の代表作と名高いのが2002年の大ヒット映画「インファナル・アフェア」だ。公開当時の香港で興行成績年間第1位を獲得し、数々の賞を総なめにした犯罪サスペンス。2006年にはマーティン・スコセッシ監督が「ディパーテッド」としてリメイクし、同年のアカデミー賞で作品賞をはじめ4部門を受賞した。

オリジナル版では、レオンとアンディ・ラウ、当時の香港2大スターが豪華共演を果たした。警察と犯罪者という逆の立場から互いの組織に潜入した2人の男。香港の黒社会に入った青年・ラウは幹部であるサムに目をかけられ、スパイとして警察内部に送り込まれる。一方、警察学校の訓練生・ヤンはある上司に見込まれ、マフィアの潜入捜査へ。

10年近く過ぎ、ラウは警察の内部調査課長に、ヤンはサムの手下にと、各々の潜入先で頭角を現していた。しかし、覚せい剤取引を目論むマフィアの一斉検挙が失敗に終わったことを機に、双方の内通者の存在が明らかとなる。裏切り者の正体を暴くため、ついに対決の時がやってくる。

レオンが演じたのは、マフィアに潜入した警察官・ヤン。柔和な雰囲気を纏いながら、軽さの中に憂いを感じさせる。悪の世界に身を置く自身と、心の内に秘めた正義との間で葛藤し、長年マフィアの一員として過ごす中で自分が何者かを見失いかけ、精神を病み自暴自棄になっていく。失われた過去に相対しても、真の自分を知る人を亡くしても動揺も抑え平静を装うヤン。レオンのどこか哀しげな眼差しが、切なく胸を締め付ける。

一方、ラウが演じたのは警察に潜入したマフィアの男。彼もまたスパイ生活を送るうちに、婚約者との安定した暮らしを失いたくないと感じ始めていた。組織を裏切り、善人として生きるか。緊迫の攻防が展開する中で暗い闇を抱えた瞳が鋭く光る。ラウの硬派な演技が、野性味溢れる男っぽさをより魅力的に映す。表と裏の世界で過酷な運命を生き抜いてきた2人は、長い月日で自分の真の姿を見失って混乱していく。男たちの葛藤と友情、裏切りに愛が交錯する。

本作の後に、前日譚の第2作「インファナル・アフェア 無間序曲」(2003年)、後日譚の第3作「インファナル・アフェアIII 終極無間」(2003年)も作られた。全3部作となるシリーズを通じて、時間軸の交錯した複雑で精緻なドラマが展開。2人の対決を軸に鮮烈な物語世界を構築し、絶賛を浴びた香港ノワールの金字塔で、真逆の魅力を放つ男をレオンとラウが熱演した。

文＝中川菜都美

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