桃井かおりがどこにでもいそうな主婦を演じる、怪獣の出ない怪獣映画「大怪獣東京に現わる」
2023.11.28(火)
怪獣映画は多々あれど、怪獣の出てこない怪獣映画は珍しい。「大怪獣東京に現わる」は大怪獣という名を冠しておきながら、怪獣の姿は欠片も出てこないという異色作だ。その代わり、主演に桃井かおり、共演に本田博太郎や田口トモロヲといった個性的な面々を配し、怪獣出現によりパニックに陥る人々をシニカルな目線でコミカルに描いた怪作になっている。
ある日、正体不明の大怪獣が東京湾に出現。怪獣の日本上陸により都心が壊滅状態になる一方、東京から離れた福井県の三国町という田舎町に住む主婦・君枝(桃井かおり)は、そのニュースを他人事のように眺めていた。近所の仲良し奥さんたちと怪獣について論じたり、食料を買い込んだりと大騒ぎする中、怪獣が進路を変えたことで、福井にまでやって来る可能性が浮上。ニュースを通じて自衛隊やアメリカからの援軍も頼りにならないことを思い知った君枝ら三国町の人々は、次第にパニックに陥っていく。
桃井かおりが演じるのは、のどかな町に住むどこにでもいそうな主婦。整っていない髪に年季の入っていそうなヨレた服をまとう姿は片田舎のおばさんそのもので、普段の凛とした出で立ちからは想像もできないながら、絶対にこんな人がいそうだというキャラクターに仕上がっている。
怪獣が登場しない怪獣映画だけに、重要になってくるのは怪獣を目撃する人々の反応だ。劇中では怪獣の動きを報じるアナウンサーの声が逐一テレビやラジオから流れ、随所で街が火に包まれるような映像が挟まれるだけで、本当に怪獣の姿は影も形も出てこない。
そんな中で桃井をはじめとする役者陣はテレビを見ては表情を曇らせ、怪獣の進路変更を聞いては一喜一憂し、さらには福井に迫ると聞いて本格的な焦りの色を出すことで、自分の身に脅威が迫ってくる不安を描き出している。
パニック群像劇でもある本作は、桃井が演じる君枝の他にも三国町の人としてさまざまな人物が登場する。君枝の夫を演じる本田博太郎、高校の生物教師に扮する田口トモロヲといった面々が、怪獣の脅威が迫るにつれ恐怖や狂気にかられていく姿も見ものだ。そんな三国町の人々を見ていると、人は終末に何をしようとするのかという普遍的な問いへのそれぞれの答えを提示されているような気持ちにもなってくる。
「怪獣の出ない怪獣映画」という逆転の発想だけで突っ走ったようにも思えるが、シュールな笑いの中に風刺的なテーマも込められている本作。桃井らキャスト陣のアクの強い演技だけでも、一見の価値があるだろう。
文=本永真里奈
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