長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ演じる政治家たちのやりとりも面白い大作映画『シン・ゴジラ』
2023.10.20(金)
1954年に第1作が公開されて以降、半世紀以上にわたって製作されている「ゴジラ」映画。ハリウッドでもリメイクされるほど、日本のみならず世界中で愛され続けるゴジラだが、2016年に公開された『シン・ゴジラ』は、シリーズ中で最も強いインパクトを与える傑作映画となった。いや、むしろ日本の特撮映画の新たな方向性を示した、映画史に残る記念碑的な作品と呼んだほうがより正確かもしれない。
脚本・編集・総監督を務めたのは庵野秀明。日本SF大賞受賞作の「新世紀エヴァンゲリオン」などを手掛け、アニメ界の巨匠として知られるが『ラブ&ポップ』(1998年)など、実写作品にも進出している。幼少期から特撮作品の大ファンであったことから、本作においても相当な意気込みを持って臨んだことがうかがい知れる。
©2016 TOHO CO.,LTD.
主人公は内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)。さらに内閣総理大臣補佐官の赤坂秀樹(竹野内豊)、米国大統領の特使であるカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)。以上の3人を核として、総勢328名のキャストが登場する。まずは、同作のストーリーを簡単に紹介したい。
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東京湾アクアトンネルが大量の浸水に巻き込まれて崩落する大事故が発生。首相官邸では大河内総理大臣(大杉漣)以下、閣僚が参集されて緊急会議が開かれる。内閣官房副長官の矢口(長谷川)は、海中に棲む巨大生物による可能性を指摘。閣僚たちは矢口の意見を一笑に付したが、直後、海上に正体不明の巨大生物の尾が出現する。政府関係者が慌てて情報収集をするも、巨大不明生物は東京に上陸し、次々と街を破壊しながら前進していく。政府は緊急対策本部を設置し、自衛隊に防衛出動命令を発動。ついに「ゴジラ」と名付けられた巨大生物と、自衛隊との一大決戦が始まった。人智を遥かに凌駕する巨大生物・ゴジラの前に日本人の運命は...。
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本作の大きな特徴は、政府側の一員である矢口を主人公に据えたことで、怪獣映画でありながらも政治ドラマ的な一面を持たせた点にある。例えば、正体不明の巨大生物に対し、「捕獲」するか「駆除」するかで大臣たちが揉める場面など、前例なき事態に現行法のもとで対応にオロオロする彼らの姿が滑稽ですらある。「東京湾で自衛隊が火器を使用した前例がない」など、超現実的な視点で大臣たちが展開する議論は、ゴジラの強大さを知っている視聴者からすればありえないのだが、本作の筋立てが巧妙なのは、ゴジラの全貌が冒頭ではまだわからない点だ。
また、本作の監督・特技監督を務めている樋口真嗣監督といえば、平成ガメラシリーズなどでも特技監督を務めた、日本映画界屈指の特撮のプロフェッショナル。本作における特撮の迫力の見事さは、まさに樋口監督の手腕によるところが大きいはず。
冒頭からかなりのハイテンポでストーリーが進んでいくので、俳優たちの演技を堪能する余裕があまりないのだが、それでも本作を支えているのはやはり主軸となる3人だ。
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特に長谷川は未曾有の事態にも冷静さを失わず、身勝手な意見を繰り出す閣僚たちを巧みに手なずける矢口を好演。既定路線に捕らわれず、フレキシブルな態度でゴジラに挑もうとする姿は、「こんな政治家が現実にいてほしい」と思わせる。竹野内演じる赤坂は、体制側の立場から矢口と意見が対立する場面もあるが、終始リアリティのある演技を見せている。石原は、日系アメリカ人で英語交じりの日本語を話すなど、俳優としてはかなり困難な役どころだが、被爆三世である自身の出自から、ゴジラへの核攻撃を行使しようというアメリカ政府の動きに当惑する場面など、複雑な心象を細やかに演じて見せた。
物語後半では、脅威を増すゴジラの前に東京が火の海と化し、政府の人間も命を落とすなどを甚大な被害に遭う。国連が核攻撃の実行を薦めようとする中、窮地に追い込まれた矢口率いる対策チームは、各国の協力を得て対ゴジラにある作戦を立案して挑む。クライマックスまで息をつく間もないが、本作の魅力は、あくまで日本政府として現実的にゴジラに挑む矢口らの奮闘ぶりだろう。「会議」の場面がこれほど多い特撮映画は珍しいが、現行法を細かく分析した上で、巨大不明生物・ゴジラに挑むとどうなるか、というリアルな視点でクールに描いた庵野脚本の筆致は秀逸というほかない。国際平和の意味や「核」使用の是非などを含め、現代人に多くを問いかける作品でもある『シン・ゴジラ』。劇場公開時に観たという人も多いだろうが、あらためて見てみると多くの再発見がある作品でもある。初見の人はもちろんのこと、ぜひ、この機会に多くの人に楽しんでほしい。
文=渡辺敏樹
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