浜崎あゆみが、10代半ばながら存在感を放った映画「渚のシンドバッド」
2023.10.19(木)
デビュー25周年を迎え、自身初の47都道府県ツアーを開催中の浜崎あゆみ。そんな浜崎が重要な役として出演した青春映画が「渚のシンドバッド」だ。
監督、脚本は「二十才の微熱」で長編映画デビューを果たし、「ぐるりのこと。」、「恋人たち」などが高い評価を得た橋口亮輔。揺れ動く10代の日々を繊細な感性で描いた本作も第25回ロッテルダム映画祭でグランプリに当たるタイガー・アワードを獲得した。ジェンダー・アイデンティティは今でこそ普通に語られる問題だが、橋口監督は1990年代から悩み、葛藤する青年たちの姿を作品に反映してきた。
©1995 TOHO CO., LTD.
浜崎が演じているのは転校してきた高校2年生の相原果沙音。滅多に笑わず、忖度なしで言いたいことを言う相原はクラスの中で浮いた存在。しかし、自身が男子を好きであることを隠していた伊藤修司(岡田義徳)には心を開く。一方、伊藤は台風のような相原の存在によって、心がかき乱されていく。当時の浜崎あゆみはまだ10代半ば。この後、歌手として人気を博すが、女優になったとしてもきっと成功していたのではないだろうか。それぐらい鮮烈な存在感を残している。
■偽りの優しさに怒りを爆発させる浜崎の演技が胸を揺さぶる
©1995 TOHO CO., LTD.
伊藤がクラスメートの吉田(草野康太)に特別な感情を抱いていることをいち早く察知するのが相原だ。前に通っていた高校で心に深い傷を負ったからこそ、相原は伊藤が「自分はほかの人とは違う」という孤独感を抱えながら生きていることを敏感に感じとる。
イジメにあいながらも勇気を出して吉田に告白したことを伊藤から聞き出し、「けっこう大胆なことできるじゃん?」と茶化すような言い方をするが、伊藤も相原が偏見を持たずに自分に接していることがわかるから、2人の距離は少しずつ縮まっていく。そんな相原が誰にでも優しく敵を作らないタイプの吉田に怒りを爆発させるシーンは印象的だ。吉田の家の倉庫で傘を投げつけ、バイクに蹴りを入れ、そこら中のものをひっくり返し、制御できないほどの感情が暴走する。傷つけない思いやりは時に残酷だということを言葉にせずに身体中で表現する浜崎の演技が刺さってくる。
■さまざまな顔で魅了する浜崎は原石の輝き
ブラスバンド部に所属している優等生の清水(高田久実)と付き合っていた吉田はいつしか相原を好きになり、恋愛模様が交錯する。ある日、相原は伊藤に自分の田舎の話をする。夏蜜柑畑のそばにある浜で泳いだことや畑で寝転がっていると空と地面が逆転したような気持ちになったことをジェスチャーを交えて屈託のない笑顔で話す子供のような相原に伊藤もつられて無邪気な笑顔を見せる。
とはいえ、学校内の人間関係にはウンザリしている相原は夏休みを前に学校を休み、田舎に帰ってしまう。夏蜜柑畑と海の景色のヒントを頼りに伊藤が吉田を連れて会いに行くシーンは、長崎ロケの美しい風景もさることながら、キャップに服とスニーカーで全身白でコーディネートした相原がオシャレでチャーミング。わざわざ自分を訪ねてきた伊藤と吉田に向かい合い、痛みを受け止めようとする在り方には大人の顔も垣間見え、惹きつけられずにはいられない。長回しを効果的に使ったノスタルジックな映像の中、浮かび上がるのは2度とは戻らない切なくてドキドキする季節。まさに思春期真っ只中にいた浜崎の姿が鮮やかに刻みつけられた映画でもある。
文=山本弘子
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