窪田正孝の観る者を引きつける演技が圧巻!妻夫木聡、安藤サクラら屈指のキャストが集結した映画「ある男」
2023.9.6(水)
芥川賞作家・平野啓一郎の同名小説を、「愚行録」(2017年)や「蜜蜂と遠雷」(2019年)の石川慶監督が映画化した「ある男」。昨年11月に公開され、第46回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む主要8部門を制した本作は、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝をはじめとした日本映画界屈指のキャストが集結して、息を呑むような名演を披露した。"ある男"の正体を暴いていくスリリングなミステリーであると同時に、人間の本質を浮き彫りにする極上の人間ドラマとして完成している。
弁護士の城戸(妻夫木)が、かつて離婚調停を請け負った女性・里枝(安藤)から、奇妙な話を聞かされたことから物語が展開する本作。離婚後、故郷に帰った里枝は、そこで大祐(窪田)と名乗る実直そうな男性と出会って再婚し、幸せな家庭生活を送っていたが、ある日、大祐が不慮の事故で急死。長年疎遠になっていた大祐の兄が法要に訪れ、遺影に写っている男は「大祐ではない」と話したことから、愛したはずの夫が名前も分からない別人だったことが判明する。そして身元不明の"ある男"の正体を探るべく調査を開始した城戸は、ある真実に辿り着く。
(C)2022「ある男」製作委員会
ポーランド国立ウッチ映画大学で演出を学んだ石川監督は、長編映画デビューを果たした「愚行録」で、第73回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出された経験を持つ。本作も第79回ヴェネチア国際映画祭で同部門に正式出品されたほか、第27回釜山国際映画祭のクロージング作品として上映されるなど、海外でも高い評価を受けている監督だ。
人物の感情を繊細に掘り下げていく石川監督の真骨頂が本作でも冴え渡っている。弁護士の城戸は、"ある男"の正体を追い求めるうちに、自己存在の意味も問いかけていくようなキャラクターとして登場。スマートな成功者に見えた城戸が、次第に苛立ちや抑えていた感情を表出させていく姿は、ハラハラするような緊張感にあふれている。妻夫木が、自身の足元が揺らいでいく様子を見事に体現しており、とりわけ城戸と、"ある男"の正体の鍵を握る服役囚の小見浦(柄本明)が対峙する場面は、鳥肌モノの演技合戦を見ることができる。
(C)2022「ある男」製作委員会
愛したはずの夫が名前も分からない別人だったことを知り、戸惑いつつも、まっすぐにその事実に向き合おうとする女性が里枝だ。悲しみ、寂しさ、幸せ、喜びなど、状況によって変化する里枝の感情は、もっとも観客が共感するものかもしれないが、安藤がそのグラデーションを繊細かつ鮮やかに演じ切っており、改めて彼女の俳優力を実感させられた。
そして"ある男"という、映画のタイトルにもなっている大祐は、城戸と里枝がその正体を追い求めたように、「一体、何者なんだ?」「彼に何があったんだ?」とグイグイと観る者を引きつけていく...窪田の演技が圧巻だ。
大祐の抱えた過去は想像を絶するものだが、窪田の表現するすべてを諦めたような瞳、自身の存在を呪うかのような慟哭は、胸を鷲掴みにするようなヒリヒリとした痛みと迫力があり、鑑賞後には「自分はどうやって人間関係を築いているだろうか」と観客にも考えさせるようなパワーがある。「春に散る」(公開中)など注目作が続いている窪田だが、その身体作りからも作品と役柄にかける情熱が感じられた。
文=成田おり枝
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