菅田将暉が"転機となった作品"と語る主演映画「共喰い」で見せた、渾身の演技に惹き込まれる!
2023.8.31(木)
ルックスの良さはもちろん、出演作のメガホンを取った監督たちが口をそろえて「天才」と評するほどの演技力を持つ俳優・菅田将暉。その実力は、2017年公開の映画「あゝ、荒野 前篇」で第41回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞ほか多数の映画賞を受賞、また第43~45回の日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を連続受賞するほどで、名実ともに"日本を代表する俳優"と言って差し支えないだろう。
菅田の俳優人生は2009年、若手俳優の登竜門と言われる平成仮面ライダーシリーズ第11作「仮面ライダーW」への出演から始まった。その後もさまざまな映画やドラマに出演してキャリアを積んだわけだが、そんな中で、俳優としての転機になった作品があったという。その作品というのが2013年に公開された主演映画「共喰い」だ。
同名の芥川賞受賞作を原作とした本作には濡れ場もあり、所属する事務所内では、当時19歳だった菅田にはまだ早いと反対する声もあった。しかし、それまでのアイドル的な存在から未知の領域に飛び込みたいと考えた菅田は、反対を押し切りオファーを受けたという。それだけに、本作は若き日の菅田の渾身の演技が見られる作品となっている。
(C)田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
菅田が演じるのは、17歳の高校生・篠垣遠馬。神社の神輿蔵で、付き合っている彼女の千種(木下美咲)と既に体の関係を持っている程度に早熟だが、ひとつ悩みがあった。遠馬の父である円(光石研)にはセックスの時に相手の女性を殴ったり、首を締めたりする性癖があるため、自分もいつかそうなってしまうのではないか――。
菅田が演じる遠馬からは、まず「青い」という印象を強く受ける。家を出て魚屋を営んでいる母・仁子(田中裕子)と川辺で会話するシーンでは、髪を額に垂らしているせいもあって、横顔には子供っぽさが感じられる。また千種と神社で抱き合った後、社の鈴紐を意味もなく揺らしたり、遊んでいる子どもたちに砂を投げつけたり、若さを持て余している様子が伝わってくる。
深夜、円と現在の妻の琴子(篠原友希子)が抱き合っている時、音を立てないようベッドから降り、目を光らせて覗き見するシーンにも、衝動に抗えない遠馬の若さが現れている。
(C)田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
まだ幼い部分を残す遠馬が抱える苦悩も、菅田は秀逸な演技で表現する。仁子と2人で円の性癖の話をする時は、その血を引く息子として心苦しそうに視線を動かし、顔を背ける。琴子から子供ができたと告白された時には顔をこわばらせ、戸惑いを見せた後にものすごい勢いで立ち上がり、家を出ていく。
そして千種を呼び出して、神輿蔵で押し倒す。父に子ができたことへの恐れ、苛立ちもあっただろうが、その時初めて、遠馬は千種の首を締めてしまう。恐れていた、父の遺伝子が顔をのぞかせた瞬間だ。
自分も父と同じだと知った遠馬は、その後自暴自棄になる。母に責められた時は憮然とした表情で立ち尽くし、千種と再会しても邪険に扱い「俺はあの親父の息子ぞ!」と言い放つ。性に対して奔放で、女性を痛めつける性癖が自分にもあるとわかった遠馬が、葛藤を抱えている様子がよくわかる。
物語はこの後二転三転し、衝撃の結末を迎える。物語を通じて感じるのは、ある種異様な状況に置かれた若い遠馬を菅田がしっかり演じているからこそ、父の異常性と、そこから生じる遠馬の苦悩が際立ち、物語に潜む暗い部分まで伝わってくるということだ。
それができたからこそ、菅田は本作で第37回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞し、本作での経験がその後の飛躍に繋がっていったのだろう。本作は確かに、俳優としての菅田の世界を広げた作品と言える。ファンならずとも、ぜひ一度見ていただきたい1作だ。
文=堀慎二郎
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