戸田恵梨香と永野芽郁の演技が胸に迫る!「ハコヅメ」とは異なる関係性を表現した映画「母性」
2023.8.30(水)
人気と実力を兼ね備え、幅広い世代から支持を集めている戸田恵梨香と永野芽郁。ドラマ「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」(2021年)では抜群のコンビネーションを見せて視聴者の心を鷲掴みにしたが、そんな2人が母娘役で共演して話題を呼んだのが、ベストセラー作家・湊かなえの同名小説を映画化したミステリー「母性」だ。
原作は、「告白」や「Nのために」「リバース」など映像化作品も多い湊が「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説です」と語った入魂作。母親を喜ばせることを生きがいとしているルミ子(戸田)は、絵画教室で後に夫となる青年と出会い、彼のプロポーズを受け入れて結婚する。やがてルミ子は妊娠し、母親に不安を漏らしながらも病院で女の子を出産。ルミ子は常に祖母を喜ばせるように娘・清佳(永野)を教育する。そんなある日、家族の日常を揺るがす事件が起きる...。
(C)2012湊かなえ/新潮社 (C)2022映画「母性」製作委員会
"娘を愛せない母"のルミ子と、"母に愛されたいと願う娘"の清佳。それぞれの視点から事件を語り、次第に食い違う2人の証言から母娘の関係性が描き出されていく。「ハコヅメ」では先輩・後輩警察官役を息ぴったりに演じた戸田と永野だが、実は「ハコヅメ」に先駆けて初共演を果たしていたのが本作だ。まったく異なるテイストとなる本作では、彼女たちが想いのすれ違う壮絶な母娘関係を体現。鬼気迫る演技を披露している。
まず冒頭の教会のシーンから、ルミ子のやつれた表情に目を奪われた。「こんな戸田恵梨香は見たことがない」と思うような姿で、この人はどんな苦悩を抱えているのだろうかと一気に物語に引き込まれる。自分の母親を愛するがあまり、「いつまでも守られる側でいたい」という想いにとらわれ、娘を愛することができないルミ子の複雑な心情を見事に表現している。
また、ルミ子からどんなに冷たく対応されようとも「母に好かれたい」「喜んでほしい」という一心で日々を送っている清佳を演じたのが永野だ。母に尽くそうとする清佳はなんとも健気で、永野の持つピュアな魅力も相まって、そのいじらしさに見ているこちらも胸が締め付けられるような熱演を見せている。
(C)2012湊かなえ/新潮社 (C)2022映画「母性」製作委員会
本作の完成報告会では、演じることに不安があったという2人がお互いに支え合い、信頼し合って、難役とも思える母娘役を演じ切ったことを明かしていた。劇中では彼女たちが巻き起こす化学反応を感じられる場面も多く、とりわけ"娘を抱き締めている"と感じている母と"母に首を絞められた"と感じている娘という違った視点が描かれる場面では、メガホンを取った廣木隆一監督も2人の気迫に驚いたという。
廣木監督といえば「ノイズ」(2022年)、「あちらにいる鬼」(2022年)、「月の満ち欠け」(2022年)など近年だけでも、話題作を次々と手がけている名匠。複数の視点から物語を描く手腕にも定評がある。さらに美しすぎるルミ子の母を演じた大地真央、ルミ子にきつく当たる義母を演じた高畑淳子の演技も圧巻。"母性"の正体を考えてみたくなる1作となっている。
文=成田おり枝
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