北川景子と錦戸亮の等身大の演技が爽やか!前向きに生きる姿と温かい眼差しがリアルな感動作
2023.8.28(月)
現在放送中の大河ドラマ「どうする家康」で、信長・秀吉・家康をつなぐ運命の女・お市を演じた北川景子。その生き様にふさわしい凜とした麗しさで、豪華キャスト陣の中でも存在感を放った。
一方、6月から配信スタートした「離婚しようよ」で物語のキーパーソン・加納恭二役を演じて注目を集めた錦戸亮。色気ダダ漏れの自称アーティストという個性的な役柄を違和感なく演じ、ダメ男の色気に沼落ちする視聴者も続出した。俳優として進化を続ける2人が初共演したのが映画「抱きしめたい-真実の物語-」(2014年)だ。
本作は、HBC北海道放送制作のドキュメンタリー「記憶障害の花嫁-最期のほほえみ」(2011年)をベースに、「黄泉がえり」(2003年)や「どろろ」(2007年)の塩田明彦監督が映画化したラブストーリー。高校生のときに壮絶な交通事故に遭ったつかさは、奇跡的に生還しながらも左半身の麻痺と前日のことも忘れてしまう記憶障害を抱えて生きている。だが、生来の勝ち気さでめげずに常に前向きに人生を歩んでいた。ある日、彼女はタクシードライバーとして働くごく平凡な青年・雅己と出会って恋に落ちる。両親の反対や数多くの障害を乗り越えて2人は結ばれ、小さな命を授かるが、男の子を出産後、悲劇に見舞われ...。
北川は、事故の後遺症で障害を抱えながらも前向きに生きる女性・つかさを演じた。車椅子も片手でスイスイ乗りこなし、半身だけを使って暮らす生活も板についている。いつも前向きで明るく、思ったことははっきりと口にする。感情豊かでコロコロと表情が変わり、ぱっと花が咲くような可愛らしい笑顔が魅力的だ。
「忘れた」とあっけらかんと告げ、困難を前にしても持ち前の強さと明るさで周りを魅了していく。辛いリハビリを乗り越えようともがき苦しむ迫真の演技も、さながらドキュメンタリーのようだ。
そんな彼女に一生の愛を誓う雅己を錦戸が好演した。雅己は、前述の「離婚しようよ」とはまったく異なる純朴な好青年。照れくさそうな優しい笑顔も、つかさの明るさに惹かれていく様子も自然だ。思い込んで一人で決めてしまう悪い癖はあるが、誰にも分け隔てなく真剣に向き合う。その佇まいからは、つかさを真っ直ぐに受け止め、どんなことがあっても守ろうとする強さを感じさせる。
息子を見つめる父親としての眼差しも温かく、落ち着いた語りも静かに胸に響いた。アドリブかと思うほどに自然で実直な錦戸の演技で、物語により一層のリアリティが加わっている。
実話をベースにした物語ゆえに同情を誘うようなベタな感動作になりがちなところだが、塩田監督は乾いたタッチで淡々と彼らの日常を紡いだ。テンポよくエピソードを積み上げる作劇と、北川と錦戸の等身大の演技が、嘘のない感動を爽やかに生み出している。
文=中川菜都美
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