初代仮面ライダーを演じた藤岡弘、が初主演映画「野獣狩り」で見せたハードボイルドさ
2023.8.18(金)
いまや"仮面ライダー俳優"が若手俳優の登竜門としてすっかり定着したが、その初代ライダーを務めたのが藤岡弘、(旧・藤岡弘)だ。そんな彼が初めて主演を務めた映画が、1973年公開の「野獣狩り」。「仮面ライダー」で一躍有名となった若き日の藤岡が、ハードボイルドな役柄と渋いアクションで魅せる刑事ドラマだ。
銀座にビルを構える国際企業の社長が、「黒の戦線」と名乗る過激グループに誘拐される事件が発生。彼らは社長の命と引き換えに、企業秘密である原液の成分を公開しろという妙な要求を突きつける。若手刑事・明(藤岡)は、同じく刑事である父・長太郎(伴淳三郎)や上層部への反発心を抱きながらも捜査にあたるが、犯人の手がかりや目的は一向につかめない。そんな中、米国本社が約8000万円の身代金と社長の身柄の交換を提示し、刑事たちはそれを機に犯人と接触しようと奔走する。
映画ファンの間で隠れた名作と呼ばれる本作は、主演の藤岡にとっても思い入れの深い作品だという。それはまず、藤岡自身がノースタントで挑んだアクションの数々に理由があるだろう。自らアクションをこなす俳優として知られる藤岡だが、本作では犯人との追跡劇でビルの屋上を外壁伝いに渡り、ビルからビルへと飛び移るなど、今では到底考えられないようなアクションに挑んでいる。
©1973 TOHO CO., LTD.
またタクシーに乗って逃げる犯人を走って追いかけたり、犯人との激しい銃撃戦を繰り広げたりと、そのどれもが良い意味でどこか泥臭く、単にリアルという言葉では片付けられない"本物さ"に満ち満ちている。藤岡自身が「監督がすさまじいリアリティを求めていた」と語っているが、そこに渋くも本物のアクションで応える藤岡がいたからこそ、この本物感は成立したのだろう。そこに加えて、本作で撮影監督デビューとなったキャメラマン・木村大作の根気と熱意ともいえるカメラワークがあったことも忘れてはならない。
泥臭く男気にあふれているのはアクションだけではない。こわもての風貌にぶっきらぼうな物言い、なにかと上層部に噛みつく姿から荒々しいベッドシーンにいたるまで、ハードボイルドな男をこれでもかと凝縮したような藤岡の姿が、50年近く経った今でも見る者の心をしびれさせる。同じ正義に燃える男でも「仮面ライダー」の紳士的な正義漢とはまったく異なる姿を見せた若き日の藤岡は、俳優としてのさらなる飛躍を感じさせたに違いない。実際、彼はここから順調にスター街道を歩んでいく。
ほとんどがロケ撮影だった本作には銀座の歩行者天国や池袋の百貨店など、70年代の都心の街並みやそこを歩く人々の姿が収められている。当時を知る人々には懐かしく、今の世代の人にとっては逆に新鮮に感じられるだろう。世代にかかわらず、藤岡弘、の初期の名作であり、日本映画の隠れた傑作であるこの映画を今こそ楽しんでほしい。
文=本永真里奈
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