山田孝之が演じたシングルファザーの日常に不思議と心を動かされる映画「ステップ」
2023.7.13(木)
大きな事件は何も起こらない。ただ淡々と、父と娘の日常が続く。それなのに静かな感動を呼ぶ映画が、山田孝之が主演する「ステップ」だ。「とんび」「流星ワゴン」などで知られる小説家・重松清による同名小説を原作として、大切なものを失った家族が10年の時を経て成長していく姿をこまやかに描き出す。
(C) 2020 映画『ステップ』製作委員会
物語は、結婚3年目にして妻を亡くした健一(山田孝之)がカレンダーに「再出発」と書き込むところから始まる。30歳でトップセールスマンだった健一は、2歳半になる娘・美紀の子育てと仕事の両立のため、時短勤務が可能な部署に異動していた。自分ではうまくやっているつもりでも、何かと力不足であることを痛感する日々。それでも彼は男手ひとつでの子育てにこだわり、どうにか前へと進んでいく。
主人公である健一を演じるのは、今作で初のシングルファザー役に挑戦する山田孝之だ。山田孝之といえば「闇金ウシジマくん」シリーズなど強面を生かした役や、「勇者ヨシヒコ」シリーズ、Netflixドラマ「全裸監督」などエキセントリックな役のイメージが強く、独自の路線を確立してきた。
そんな彼が久しぶりに演じる"普通の人"は、本当にどこにでもいそうな普通の父親だ。職場から早上がりする時の肩身の狭そうな感じや、子供を寝かせて思わず自分も数秒ほど居眠りしてしまう姿など、子育て中の人が見れば身につまされそうな"育児あるある"もふんだんに盛り込まれている。そんな彼に肩入れしてしまうからこそ、最愛の人を失った苦しみと、それでも前を向く彼の強さに強く心を動かされる。
(C) 2020 映画『ステップ』製作委員会
この映画では、さほど事件は起きない。序盤では健一が娘を保育園へ送り、仕事に向かい、早上がりしてお迎えへ行き...という日常がただ繰り返される。しかしその普通に見える日々の中にも、健一には常にどこか言いようのない悲壮感のようなものが見え隠れする。死の悲しみに飲まれてしまうのでもなく、しかし吹っ切れているわけでもない。心の奥底には、常に亡くした妻の面影がある。そうやって、健一の人生が失ったものを抱えながら生きていくという作品全体のテーマへとつながっていく。
大切なものを失ったのは健一だけではない。娘の美紀は母を亡くし、健一の義理の父母は娘に先立たれた。そして健一の義理の兄夫婦や、子育ての中で健一が出会う人々も、皆が大切な誰かを失った悲しみの中で"普通"の毎日を生きている。そんな彼らが懸命に生きる10年という歳月を2時間の映画を通じて見終わった後には、原作者の重松清が語るように「まん丸な満月ではない家族たち」が重なりあうことでもたらされる静かな感動に包まれることだろう。
文=本永真里奈
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