役者としての底知れぬポテンシャルを次々と発揮!草なぎ剛の凄みを感じさせる2020年代の2本をピックアップ
2023.7.4(火)

「いいひと。」や、「僕の生きる道」をはじめとした「僕シリーズ3部作」などの連続ドラマ、『黄泉がえり』(2003年)、『日本沈没』(2006年)などの映画で、その親しみやすいキャラと共に確かな演技力を印象づけてきた草なぎ剛(※草なぎの「なぎ」は正しくはゆみへんに「剪」)。連続ドラマをバージョンアップさせた2012年の映画『任侠ヘルパー』あたりから危険なアクションも自らこなすようになった彼は、もはや日本を代表する第一線の俳優の一人と言ってもいいだろう。
その勢いは加速するばかりで、2019年の『台風家族』では最低最悪なクソ主人公を全身で怪演!2021年のNHKの大河ドラマ「青天を衝け」では、後に将軍になる徳川慶喜を葛藤が見え隠れするつかみどころのないキャラで体現して話題に。今年放送されたドラマ「罠の戦争」でも、権力で事件を隠蔽しようとする国会議員への復讐を決行する議員秘書を圧倒的な熱量で演じて視聴者の目を釘づけにした。
そんな草なぎの近年の映画の代表作が、2020年の『ミッドナイトスワン』と2022年の『サバカン SABAKAN』。まったく違う味わいを持つこの2作の彼を観れば、芝居の幅の広さや役者としてのただならぬ力量を実感することができる。
■女性として生きることを望むトランスジェンダーの主人公を演じた『ミッドナイトスワン』
『ミッドナイトスワン』は『下衆の愛』(2015年)、『異動辞令は音楽隊!』(2022年)などの内田英治監督が、自らのオリジナルシナリオを映画化した人間ドラマ。本作で新宿のニューハーフショークラブで踊るトランスジェンダーの主人公、凪沙に扮した草なぎは映画の公開前から話題になったが、役になりきった彼はもはや凪沙にしか見えない。見た目の美しさだけではなく、全身に憂いや儚さを漂わせていて、発声から吐息まですべてが別の人格に。

(C)2020 Midnight Swan Film Partners
凪沙は母の愛を知らずに育った孤独な少女・一果を養育費目当てで預かるものの、彼女のバレエの才能を知り、次第に心を通わせていく。草なぎは、一果との触れ合いを通して、凪沙の内に宿る「母性」を優しい眼差しと包み込むような芝居で繊細に表現していた。
一果を守るために自らを犠牲にする凪沙の願いや痛み、孤独を生々しい感情で伝えた草なぎに対して、一果に扮した新星・服部樹咲(中学1年生)も世界レベルのバレエ、本作が初めてとは思えない演技を見せ、草なぎとのやり取りや距離感もすべてが自然で嘘がない。だから、凪沙の言動や激しい感情の揺れが観る者の胸に突き刺さるのだ。

(C)2020 Midnight Swan Film Partners
それこそ、凪沙と一果が階段の上でバレエの練習をする一連は、2人の複雑な心情を演者の崇高な芝居で視覚化した映画史に残る名シーンと言ってもいいだろう。全編を凪沙として生ききった草なぎの素晴らしさは、第44回日本アカデミー賞での最優秀主演男優賞の受賞が実証している。

(C)2020 Midnight Swan Film Partners
■わずかな出演シーンのなかで、主人公の心の変化を表現してみせた『サバカン SABAKAN』

(C)2022 SABAKAN Film Partners
一方の『サバカン SABAKAN』は、新鋭の金沢知樹監督が、自らがmixiに書いた文章がベースのラジオドラマを映画化。1980年代の長崎を舞台に、小学5年生の主人公・久田(番家一路)と家が貧乏でクラスメイトにからかわれている竹本(原田琥之佑)との、ひと夏の冒険と別れを描いたもの。結局放送はされなかったラジオドラマで朗読を担当していた草なぎは、本作では大人になった現在の久田に扮し、ナレーションも務めている。
ノスタルジーを感じさせる少年時代の回想シーンが映し出され、物語は机に突っ伏したまま眠っていた現在の久田が目覚めるところから始まる。パソコンの前に座ってはいるものの1文字も打ててはおらず、目が濁り、無精ひげを生やしていて生気がまるで感じられない。いったいどうしたのだろう?と思っていると、編集者からいつものようにゴーストライターの仕事を頼まれる次のシーンで、現在の久田が売れない作家であり、本意ではない仕事を渋々引き受けながら生計を立てていることがわかる。さらに、突然かかってくる女性からの電話で、別居中の妻に養育費を振り込み、幼い娘と定期的に会う時間をもらっている彼の苦しい現状も伝わってくる。わずか数シーンだけだというのに、パッとしない見た目と全身に纏った荒んだ空気で、そこに説得力をもたらす草なぎに驚かされる。

(C)2022 SABAKAN Film Partners
わずかだが、大切な数シーン。そこにリアリティが感じられなければ、観客は久田の記憶を辿る少年時代の物語に入っていけないが、草なぎはここでも久田という生身の人間になりきっているから、「サバの缶詰を見ると、思い出す少年がいる」という彼のナレーションに導かれるように子どもたちの世界に自然に足を踏み入れることができるのだ。
しかも、映画が描く1980年代は草なぎの少年時代とちょうど重なり、劇中の久田や竹本がする冒険や遊びの数々は彼自身も体験したことばかり。だから、ナレーションと映し出されるエピソードが乖離していないし、温もりや懐かしさすら感じさせる。
最後に映画は、大人の久田が生きる現在に戻ってくるが、ここもわずか数シーン。なのに、草なぎの佇まいや纏う空気が冒頭とは違っているのがわかるし、それだけで久田の変化を印象づけるからスゴい。そこにはナレーションをしながら少年たちに寄り添い、特別なことがなくても毎日が楽しかったあの感覚を思い出した、草なぎ自身の心の変化も反映されているのかもしれない。

(C)2022 SABAKAN Film Partners
どんな役回りでも、それをしっかり最高のカタチにする草なぎ剛は底が知れないし、そんな彼を映像クリエイターたちが放っておくわけがない。『孤狼の血』シリーズの白石和彌監督が本格的な時代劇に初挑戦した『碁盤斬り』(2024年公開予定)では仇討ちを決意する主人公の浪人を演じているようだし、まだ見ぬ草なぎを立ち上がらせる魅力的な企画がほかにも間違いなく動いているはずだ。
文=イソガイマサト
イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。
放送情報
ミッドナイトスワン
放送日時:2023年7月9日(日)21:00~、13日(木)19:40~ 他
サバカン SABAKAN
放送日時:2023年7月9日(日)23:30~、13日(木)22:10~ 他
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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