ニュース王国

映画「怪物」など話題作が相次ぐ安藤サクラの存在感!鮮烈な印象を与えた青春ロードムービー

2023.6.7(水)

「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」
「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」

バカリズム脚本の日曜ドラマ「ブラッシュアップライフ」で、何度も人生をやり直す女性をコミカルかつナチュラルに演じて、視聴者を大いに楽しませた安藤サクラ。笑いの中にしっかりと人生の機微をにじませる安藤の演技は圧巻で、改めて彼女の女優力を実感した人も多いはず。

第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した「万引き家族」(2018年)では、是枝裕和監督が「(カンヌの)審査委員長のケイト・ブランシェットさんが安藤サクラさんのお芝居について熱く語っていた。『彼女の泣くシーンのお芝居がすごくて、今後もし審査員の中でこの泣き方をする方がいたら、安藤サクラの真似をしたと思ってください』と。それくらい審査員の女優たちを虜にしたのだなと思った」と語っていたことも印象深い。

「ある男」(2022年)では、第46回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した安藤。スピーチでは子育てと仕事の両立に悩み、撮影中に引退を考えていたことを告白し、「悩みつつ、家族で会議しながらみんなで協力し合って、また頑張れたらいいなと。大好きな現場に戻れたら良いなと思っています」と映画人、そして母として愛情あふれる言葉を放った。その嘘のない姿勢はSNS上でも共感と感動を呼び、安藤がどれほど真摯に仕事に打ち込んでいるかを実感させられた。

そして是枝監督と脚本家の坂元裕二が初タッグを組んだ「怪物」(公開中)で再びカンヌ入りを果たすなど、話題作で常に唯一無二の存在を発揮し、今や世界からも注目を集める女優となった。

彼女がカルト教団の幹部を演じた「愛のむきだし」(2009年)を観て、ただ者ではない女優が登場したと衝撃を受けたことを今でもよく覚えている。その予感が確信となったのが、大森立嗣監督が松田翔太、高良健吾、安藤を主要キャストに迎えた青春ロードムービー「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(2010年)だ。

安藤サクラが松田翔太、高良健吾と共に主要キャストを演じた「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」
安藤サクラが松田翔太、高良健吾と共に主要キャストを演じた「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」

(C)2010「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」製作委員会

「まほろ駅前多田便利軒」(2011年)、「グッバイ・クルエル・ワールド」(2022年)など日本映画ファンに人気の大森監督にとって出世作となった本作。同じ施設で兄弟のように育った幼なじみの青年二人、ケンタ(松田)とジュン(高良)は、職場の先輩・裕也(新井浩文)から理不尽で執拗ないじめに遭い、閉塞感を募らせていた。

ある日気晴らしに町にナンパに出た二人は、女性的魅力が強くないカヨちゃん(安藤)と出会い、以来彼女はジュンの部屋に転がり込む。やがてケンタとジュンは、日頃の怒りをついに爆発させて、裕也の愛車をハンマーで破壊。カヨちゃんとともに、3人で逃避行に旅立つ。

安藤が演じたカヨは、想いを寄せるジュンをはじめ、男性から「バカ」「ブス」と容赦ない言葉を投げつけられる女性。ピンク色のタイツを履いてナンパに応じる登場シーンから不穏さを漂わせ、誘われればすぐについていってしまう女性という説得力がハンパない。ジュンから「うるせえブス」と言われて、カヨが「あーーーー」と声を漏らす場面はそのリアリティに恐ろしさすら感じた。

甘ったるい声でジュンにしがみつくカヨは"うざったい女"という存在だが、安藤が彼女の不安や孤独までを見事に表現し、「愛されたい」という彼女の叫びに胸が締めつけられるよう。そしてクライマックスでカヨが見せる表情は、一度見たら忘れられないインパクトを残すだろう。安藤が本作の演技で、第84回キネマ旬報ベスト・テンの助演女優賞に輝いたのも大いに納得だ。

2010年の作品だが、閉塞感に満ちた日常の中で、なんとか光を見つけようともがくケンタとジュン、カヨの生き様は、SNS社会やコロナ禍によって生きづらさが増しているようにも思える今だからこそ、鮮烈な印象を与えるかもしれない。実力派俳優たちの演技を堪能すると共に、ケンタとジュン、カヨの旅路をぜひ目に焼き付けてほしい。

文=成田おり枝

放送情報

ケンタとジュンとカヨちゃんの国
放送日時:2023年6月19日(月)22:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります