先を見たくなる上川隆也の演技が秀逸!オムニバス形式のドラマ「さよならの向う側」
2023.5.4(木)
映画やドラマはもちろん、舞台や声優としても活躍中の俳優・上川隆也。ブレイクのきっかけは1995年に主演したNHKドラマ「大地の子」で、演技力の高さが話題となった。その後もNHK大河ドラマ「功名が辻」といった歴史物や、人気コミックをドラマ化した「エンジェル・ハート」、また、息の長い人気を誇るドラマ「遺留捜査」シリーズなど、さまざまなジャンルの作品で多彩な役柄をこなし、視聴者の心を掴み続けている。
上川が演じた役の中で一風変わった役柄といえば、2022年放送のドラマ「さよならの向う側」の主人公・谷口健司だ。谷口は現世とあの世の間にある「さよならの向う側」にいて、亡くなった人々を迎える案内人。その人が思いを残すことがないよう、最後に会いたい人に会えるように案内する。ただし期限は24時間、また、まだ自分が死んだことを知らない人にしか会えない、というルールがある。
(C)清水晴木・マイクロマガジン社/ytv
1話で案内するのは、買い物中に犬を助けようとして事故で亡くなってしまった理科の教師・桜庭彩子(貫地谷しほり)。谷口は、桜庭に静かな口調で問いかける。「あなたが最後に会いたい人は、誰ですか?」
銀髪に黒い衣装という出で立ちで、大きな目でじっと桜庭を見つめる谷口は、死者を案内するという役目もあって、おごそかな雰囲気を漂わせている。桜庭との会話も落ち着いた声で、淡々とした様子で進めていく。
最初のうちは、谷口は感情があまりない人物のように見えるが、桜庭が大切な人に会うために走り出した時は、大きく目を見開いて彼女を見送る。セリフはないが、彩子の強い思いを目の当たりにして、感じ入っている様子だ。
話が進むにつれ、谷口は徐々に感情を出すようになる。2話では、会いたい人はいない、という山脇浩一(眞島秀和)に、「後悔してほしくないんです」と凄みのある口調で語りかけ、ついには自分と向き合うことから逃げている山脇を、声を荒らげて叱責する。
そして最後には、笑顔を見せて山脇に言う。「悔いを残してほしくなかったんです、私のように」と。
(C)清水晴木・マイクロマガジン社/ytv
そんな谷口の様子を見ていると、「谷口健司とはどんな人物なのか?」「なぜ案内人をやっているのか?」といったことが、だんだんと気になってくる。つまり谷口という人物を知りたいがために、物語の先を見たくなってしまうのだ。演技力の高さに定評がある上川が、思いを胸に秘める谷口を演じきっているからこそ、そこまで視聴者を引き込むことができるのだろう。
「4週連続オムニバスDORAMA」と銘打たれた本作は1話約24分と短く、4話で完結する。その短い時間の中に、それぞれの愛する人たちへの思いが描かれる。上川は公式サイトのコメントで、「人の持っている『善性』は信じていたいですし、この物語にはそう思わせてくれる温もりがありました」と語っている。永遠の別れを前に思いを貫く人たちの姿を見ていると、確かに温かな気持ちになるし、それを谷口が優しく包んでいる空気が伝わってくる。
上川演じる谷口の案内で、彼自身を含めたそれぞれの人生の最後のドラマを、じっくり味わってほしい。
文=堀慎二郎
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