名作「孤独のグルメ」に通ずる、竹内力主演ドラマ「かっこいいスキヤキ」の魅力を分析
2023.4.20(木)
竹内力が主演を務めるスペシャルドラマ「かっこいいスキヤキ」。同ドラマは、原作の久住昌之と作画の泉晴紀から成る漫画家コンビ、泉昌之による短編漫画集をドラマ化したもので、収録作の中から「夜港」「花粉」「最後の晩餐」「ロボット」の4編をオムニバスドラマとして制作している。
久住原作といえばやはり名作の「孤独のグルメ」が最もポピュラーであるため、同作と比較して作品の魅力をひも解いていきたい。まずは、原作の制作は「かっこいいスキヤキ」が1983年に単行本が刊行(※2020年に久住の漫画原作40周年を記念して完全新作の「夜港」を追加収録した新装版が刊行)され、1997年刊行の「孤独のグルメ」より14年も前に発表されている。つまり、名作に通ずる魅力の種が随所に散りばめられているといえるだろう。
また、作品の内容については、「孤独のグルメ」が主人公の井之頭五郎(松重豊)が淡々と食事を楽しむシーンを心理描写で綴りながら描いているのに対し、「かっこいいスキヤキ」はジェームス本郷(竹内力)のキャラクターの濃さ、料理についてだけでなく店選びや花粉症の症状との格闘、複数人ですき焼きを食べる際の肉をより多く食べる方法、お腹を壊している時のトイレまでの道中の葛藤など、テーマのジャンルが多岐にわたっているのが特徴だ。竹内演じるジェームスは職業不詳で、「すご腕」と呼ばれており裏稼業のような佇まい。口数は少なく、竹内が醸し出す圧力は半端ない。そんな重厚な雰囲気を持ちながら、実は心の中でいろいろと分析しており、心理描写では饒舌であるところがギャップで面白い。しかも、他人よりどれだけ肉を多く食べられるかを考えていたり、食事する店を探すため何度も同じ道を往復したり、必死に我慢しながらトイレを探すさまは、竹内のお茶目な部分が芝居の全面に出ており、思わずクスリとしてしまう。また、ジェームスの思考が、「あるある!」と共感するものもあれば、考え過ぎなほど突き詰めているところもあり、幅広い視聴者が楽しめる内容になっている。

一方で、「孤独のグルメ」との共通点は、やはり主人公の心理描写で物語が進んでいくという点だ。同ドラマは「孤独のグルメ」と比べるとかなりコミカル色が強められているのだが、誰かの思考をのぞき見しているような描き方というのは、つい見入ってしまう効果がある。「孤独のグルメ」の場合、深夜帯でグルメにフォーカスしたというポイントも相まってコアなファン層に刺さったところから人気作へと駆け上がったが、やはり核となる部分はドラマでありながら一人称を貫いているところこそが醍醐味。
そんな「孤独のグルメ」ならではの手法を、うまく別テーマで表現しているのが同ドラマなのだ。原作の魅力に加え、竹内にしか出せない味のある表現、ヨーロッパ企画の上田誠が脚本監督を務めた脚本など、多くの才能が結集して実現させた"スペシャル"なドラマであるといえる。"ながら見"してしまいがちな「孤独のグルメ」も、同ドラマを観た後に観賞すると、気付かなかった隠れた魅力を見つけられるかもしれない。

文=原田健
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