西城秀樹の純朴な青年役と浅田美代子の天真爛漫な演技が魅力の映画「しあわせの一番星」
2023.4.16(日)
西城秀樹にとって1974年は忘れられない年になっただろう。シングル「傷だらけのローラ」が大ヒットし、2年連続で日本レコード大賞の歌唱賞を受賞。第25回NHK紅白歌合戦にも初出場した年で、歌手としての実力がお茶の間にも広く認められた時期だ。そんな西城は歌のみならず、俳優としても活躍したことは多くの人が知るところ。
1974年は、ホームコメディ「寺内貫太郎一家」で小林亜星演じる寺内貫太郎の息子・周平役を演じ、2人の激しすぎる親子ゲンカシーンが大きな話題となった。この大ヒットドラマが始まって間もなく公開されたのが、浅田美代子が主演を務め、西城が1人2役を演じた映画「しあわせの一番星」だ。
(C)1974 松竹株式会社
浅田は前出の「寺内貫太郎一家」にも寺内家のお手伝い役で出演し、エンディングでは西城と浅田が屋根の上で「しあわせの一番星」(1974年にリリースされた浅田美代子のシングル)をデュエットしていたが、この曲名がそのまま映画のタイトルになったのが本作。映画初主演の浅田はドラマと同じお手伝いさん役で、西城は歌手の西城秀樹役とクリーニング店の店員・英雄役を演じている。
■素朴でまっすぐなヒロイン・美世子は西城秀樹の大ファン
(C)1974 松竹株式会社
中学を卒業した美世子は故郷の山梨を出て、鎌倉で住み込みのお手伝いさんとして働くことになる。目的地の駅に着いて道を聞くが、目の前に西城秀樹のコンサートを見るために並んでいるファンたちがいたため、ちゃっかり列に並び、ライブを観賞。この時、西城がステージで歌っているのがヒットシングル「薔薇の鎖」(1974年)だ。レースをあしらった白い衣装を着て、華麗なマイクスタンドアクションで歌う姿に美世子は客席でうっとり。初就職先である住み込みの家に行く前にコンサートを見るというのんきな展開に「寄り道していて大丈夫?」と心の中でツッコミを入れたくなるが、そこがまたおおらかな昭和の時代性を物語っている。
美世子の働き先の主人・神山(山形勲)は2階に下宿している女性いわく「ケチで頑固で癇癪持ち」。洗濯機もなく、掃除機もない家で美世子は「しあわせの一番星」を歌いながら家事をこなす。「歌うな」と怒られてもめげない明るい性格で、部屋の中は西城秀樹のポスターだらけ。夢の中にまで西城が登場する熱狂ぶりだ。
■クリーニング店の店員を爽やかな笑顔で演じる西城
庭で洗濯物を干していた美世子の前に「おはようございます!」と爽やかに現れた青年・英雄が西城秀樹にそっくりだったため、美世子は気が動転して洗濯物を落としてしまう。「きみ、田舎は?」と尋ね、美世子と同郷なことがわかると「時々、田舎の話をしに寄っていいかい?」と人懐っこい笑顔を見せる英雄。前半では大スター・西城秀樹として登場する西城は、ストーリーの半ばからは青年・英雄として、たびたび神山家を訪れる。
(C)1974 松竹株式会社
もちろん英雄も男前なのだが、美世子と同じ"素朴な若者"の雰囲気を醸し出しているので、セリフや表情も含めて、西城秀樹本人役として出演しているシーンとのギャップが楽しめるのがポイントだ。
主人の神山が1人娘の夕子(篠ひろ子)の結婚に大反対した時には、周囲が神山に「触らぬ神に祟りなし」の態度で接している中、美世子は持ち前の天真爛漫な性格で「なんで許してあげないんですか?」と遠慮なく攻めこんでいく。そんな神山家の問題を美世子に相談されて一役買うことになるのも英雄。クリーニングした服を届けているだけで頑固親父に八つ当たりされたり、何かと巻き込まれてしまう役回りを演じているのが面白い。
(C)1974 松竹株式会社
親と娘の関係や、2階に住む訳あり住人など、大人なヒューマンドラマが描かれる中で、青春感満載の春風を吹き込むのが浅田と西城である。1974年といえば長嶋茂雄が選手を引退し、映画「燃えよドラゴン」が大ヒット、セブンイレブン1号店がオープンした年。そんな時代の空気と共にコミカルで心温まる物語が楽しめる。
文=山本弘子
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