大河ドラマ「どうする家康」に出演した有村架純が、葛藤する複雑な心情を見事に表現した映画「前科者」
2023.4.9(日)
「第46回日本アカデミー賞」で司会を務め、映画「月の満ち欠け」で優秀助演女優賞に輝いた有村架純。現在、NHK大河ドラマ「どうする家康」に瀬名姫役として出演中、Netflixオリジナル映画「ちひろさん」では元風俗嬢役に挑戦するなど、女優としてますます役の幅を広げている。
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
そんな有村が犯罪者の社会復帰を手助けする保護司役を熱演したのが「前科者」(2022) (原作は同名漫画)だ。「WOWOW オリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-」に続いて映画のメガホンをとったのは「あゝ、荒野」の岸善幸監督。阿川佳代の成長過程も描かれたサスペンスストーリーで有村は報知映画賞を受賞。前科者・工藤を演じた森田剛との共演も話題となった。2人の役者としての実力あってこそ2時間以上にわたる映画を長く感じさせないのだと思うが、阿川(有村)が国家公務員でありながら報酬がない保護司になった背景も描かれ、連続殺人事件の真実を確かめようとひとり奮闘する姿は観る者を揺さぶる。主人公の葛藤する心情を時に大胆に時に繊細に演じた有村の演技に引きつけられずにはいられない。
■有村架純演じる型にはまらない保護司と前科者たちの心の交流
(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
コンビニ勤務と保護司の仕事を両立させている阿川はひとり暮らし。極めて質素な生活を送っている。人に尽くし、社会に貢献する温厚な人物かと思いきや、阿川はその使命感の強さのあまり、時々、感情のメーターが振り切れる。初めての保護観察対象者で今は便利屋を営んでいるみどり(石橋静河)に人間的な弱さを指摘され、「前科者に必要なのは、あんたみたいな人間だよ」と言われる阿川は、いきなり怒ったり、自転車を全力で漕ぎながら絶叫したり、保護観察中の詐欺師にお酒を勧められて1杯のつもりが泥酔したりと、決して情緒が安定しているタイプではない。
その一方で、殺人を犯した工藤(森田)に更生できると思うか?と問われ、「はい。できると思います」と答える顔には一点の曇りもない。普段は淡々としている女性の静と動のスイッチが切り替わる瞬間を表現した有村の演技にはリアリティと迫力があり、「彼女はどんな人生を過ごしてきたのだろう?」と考えさせられる。非常に人間くさいタイプの保護司という難役を見事に演じきっている。
■工藤に寄り添うことで自分の過去に向き合い、成長していく阿川
更生するために自動車工場で働いている工藤は寡黙で、少年時代に起きた悲しい事件がトラウマとなり、犯罪を犯した過去を持つ。真面目に頑張っている工藤との距離が少しずつ縮まる中、連続殺人事件が起こったことによって阿川は同級生であり、刑事になった滝本(磯村勇斗)と再会することになる。本作には中学生だった滝本と阿川に起きた出来事がフラッシュバックとして描かれているが、今にも折れてしまいそうな工藤に必死で寄り添おうとする阿川もまた心に深い傷を負っていたのだ。人を更生させる保護司になったことはある意味、自分のためでもあった。そう思わせる有村の演技が突き刺さり、森田の自分を押し殺したような演技の凄さもあいまって、重いテーマ、問いかけがズシリと響く。一度、観たら忘れられない再生の物語。女優、有村にとってもターニングポイントとなった作品に触れてみてほしい。
文=山本弘子
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