吉岡秀隆が「Dr.コトー」とはまた違う、憂いのある役柄を演じた映画「四日間の奇蹟」
2023.4.9(日)
2023年春、「犬神家の一族」で再び金田一耕助を演じる吉岡秀隆。「北の国から」で名子役と評価され、人気シリーズとなった「Dr.コトー診療所」など、代わりの利かない俳優としてキャリアを積んできた吉岡と、今も変わらぬチャーミングな魅力で女優として歌手(lily名義)として活躍中の石田ゆり子。2人が共演し、2005年に公開されたラブファンタジー映画が「四日間の奇蹟」だ。
(C)2005「四日間の奇蹟」製作委員会
原作は浅倉卓弥によるベストセラー小説で、メガホンをとったのは映画「半落ち」、「ツレがうつになりまして。」などの作品を遺した佐々部清。吉岡が演じるのは将来を期待されるピアニストだったはずが、暴漢に両親を殺された少女を守ろうとして手に致命的な怪我を負った青年、如月。如月は心に深い傷を受けた少女、千織(尾高杏奈)を引き取り、知的障害のある彼女に類いまれなピアノの才能があることに気づき、2人で各地の施設を慰問する演奏ツアーを行うことに。
ある日、2人は訪れた療養センターで職員として働いている真理子(石田ゆり子)と出会い、切なくも不思議な体験をすることになる。ピアニスト生命を絶たれた男と両親を一瞬の内に失った少女、幸せになりたかったのになれなかった女、喪失感を抱えて生きてきた3人に4日間の奇蹟が起こる?
■多くを語らずとも心情を表現する吉岡の人間味のある演技が光る
(C)2005「四日間の奇蹟」製作委員会
モチーフとなっている楽曲はベートーベンの「月光」。本作は学校でこの曲を弾いている如月(吉岡)と、如月の制服の第2ボタンをこっそり奪って走る少女の回想シーンからスタートする。その少女こそが千織と一緒に訪れた施設で働いていた真理子(石田)だった。ピアノ漬けの日々を送っていたため、クラスメートの顔も覚えていなかった如月だったが、人見知りの千織は不思議と真理子には懐き、遊んでいた時に不慮のアクシデントが2人を襲う。かつての如月がそうだったように、真理子も千織をかばって意識不明の重体に陥ってしまうのだ。この事故によって目を覚ました千織の意識は真理子と入れ替わり、如月は12年ぶりに再会した真理子がどんな人生を送ってきたかを聞くことになる。目の前で起こった信じられない出来事に困惑しながらも、真理子の話に耳を傾け、千織のことも気にかける繊細で心優しい如月を演じた吉岡は憂いのある表情と受け身の演技でその心情を雄弁に表現している。こんな人がいたら何でも話してしまいそうな、そんな雰囲気を纏っているのが吉岡の個性でもある。指の傷のみならず心の傷も隠していた如月は真理子と千織の存在によって自分と向き合うようになるのだが、台詞ではなく、肩を抱く仕草や表情で心の変遷を表しているのはさすがとしか言いようがない。
■美しい石田ゆり子の演技に涙する人が続出したのに納得
身を挺して千織をかばったにも関わらず、身体を貸してくれた千織に感謝し、職場の後輩に施設の人たちへのメッセージを託す真理子は心が澄んだ素直な女性。初恋の人、如月に甘えるシーンもさりげなく、生きていく人たちのことを思っているからこそ涙を誘う。吉岡、石田、少女役の尾高の3人の演技のコラボレーションが素晴らしいのも本作の見どころ。ロケ地、山口県角島の風景、空の色の変化も切り取った教会、海を見守る灯台も物語の素晴らしい演出となり、幻想的な世界を描き出す。じっくり浸って観たい映画だ。
文=山本弘子
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