彗星のごとく現れ、トップランナーであり続ける映画オタク!クエンティン・タランティーノのキャリアを決定づけた初期の傑作2本
2023.3.30(木)

クエンティン・タランティーノほど華々しい映画監督デビューを飾った人もいない。子どもの頃はただの映画オタク。20代になってビデオショップの店員。バイトをしながら書いた脚本がアメリカの有名な俳優ハーヴェイ・カイテルに認められ、『レザボア・ドッグス』(1992年)で長編監督デビュー。その斬新な物語構成とスタイリッシュな演出で、タランティーノは一躍有名になる。
長編2作目が『パルプ・フィクション』(1994年)。ブルース・ウィリスら有名俳優も出演し、いきなりカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞し、新しい映画の旗手として世界中から喝采を浴びた。たった2本でタランティーノ監督は世界のトップ監督の仲間入りを果たしたのだ。

(c) 2023 Paramount Pictures.
■一種のカルチャーとして求心力を誇ったクエンティン・タランティーノ
日本でも熱狂的に迎えられた。『レザボア・ドッグス』と『パルプ・フィクション』が日本で紹介された時のことを、当時10代だった僕も鮮明に思い出すことができる。まだインターネットがそこまで普及していなかった時代で、映画雑誌はもちろん、サブカルチャー誌もこぞってタランティーノを紹介していた。
映画はある種のカルト的人気を誇り、サウンドトラックCDも少しアンテナが高めの人なら皆、買っていた。もちろん僕も買った。映画の世界観を含めて、収録されたどの曲も格好良かったのだ。
タランティーノの長編デビュー作『レザボア・ドッグス』は、いきなり男たちの無駄話からスタートする。マドンナの有名曲「ライク・ア・ヴァージン」についての下ネタ全開の講釈や、オタクっぽい会話の数々。夜のファミレスで若者たちが話しているような、明日にはもう忘れてしまっているだろうどうでもいい話が延々と続く。しかも妙齢の謎めいた男たちが黒いスーツに身を固め、楽しそうにしゃべっている。
なんだこの映画は。そう思った途端、ノリノリの曲が流れて、有名すぎるほど有名なタイトルバックがやって来る。男たちがぞろぞろとどこかに向かって歩いていくカットだ。これがとにかく格好いい。映画が好きな人はもちろん、そうじゃない人も、このタイトルバックのオマージュやパクリはテレビなどで一度は観たことがあるはず。
本作を観て、その後大学で映画の勉強を始めた僕は、同級生と一張羅のスーツを着て、このシーンの真似をしてみた。撮影もした。全然格好良くなかった。ある程度、渋さがある男たちじゃないとダメなのだ。アメリカの音楽と街が醸し出すドライな空気が必要だ。そう気づいたのは、もはや『レザボア・ドッグス』がクラシックな名作として世間に認知された頃だった。

(c) 2023 Lions Gate Entertainment. All Rights Reserved.
長編2作目の『パルプ・フィクション』もさらに輪をかけて格好いい。レストランでツイストを踊るユマ・サーマンとジョン・トラヴォルタ。ファミレスでいきなりテーブルの上に立って銃を掲げ、強盗を始めるティム・ロスとアマンダ・プラマー。Tシャツ短パン姿で銃をぶら下げるサミュエル・L・ジャクソンとトラヴォルタ。どれも歴史に残る格好いいシーンだ。「真似したい!」と多くの若い映画作家たちが思っただろう(僕ももちろん思った)。だけど、フォロワーたちはみんな失敗した。タランティーノしか成し得ないシャープでおしゃれな演出なのだ。
■型にはまらない自由な発想と構成で映画を作り上げる

(c) 2023 Paramount Pictures.
タランティーノ映画といえば、時系列をめちゃくちゃにした遊び心たっぷりの構成も特徴的だ。『レザボア・ドッグス』ではレストランで猥談していた男たちが外を歩いていったと思ったら、次のシーンではもう銃で撃たれた男が運ばれていく。強盗に失敗したのだ。だけど肝心の強盗シーンそのものは映らない。強盗シーンを省略しちゃう映画があるなんて!とびっくりする。
男たちが再結集するのは、なんてことのない建屋の中。そこで、「誰が裏切り者か」という探り合いが始まる。このまま1シチュエーションものになっていくのか?と思いきや、唐突にキャラクターの過去が描かれたりして、まさに融通無碍な構成。映画ってもともと自由なんだと感動する。バイオレンス溢れる映画なのに、そんな爽やかな風が吹いている。

(c) 2023 Lions Gate Entertainment. All Rights Reserved.
『パルプ・フィクション』も構成がとてもユニークだ。過去と現在が入り乱れ、「え!?あの時のシーンがここにつながるの?」と驚かされる。奔放なようでいて、実は相当に考え抜かれた構成だ。タランティーノの脚本力と演出力が本物だということがわかる。ほかにも、スピーディーな展開と一瞬で勝負が決まるバイオレンスシーンは何回観直しても、その度に驚いてしまうし、惚れ惚れしてしまう。

(c) 2023 Paramount Pictures.
この2作の後も、タランティーノはずっと映画界のトップランナーで居続けている。ただの瞬間風速的な才能ではなく、本当に映画を愛し、考え抜いてきた男の傑作。それが『レザボア・ドッグス』と『パルプ・フィクション』なのだ。必見!
文=入江悠
入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)、『聖地X』(2021年)など。『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』が3月31日(金)公開。
放送情報
レザボア・ドッグス
放送日時:2023年4月2日(日)16:20~、16日(日)21:00~
パルプ・フィクション
放送日時:2023年4月2日(日)18:10~、15日(土)21:00~
チャンネル:スターチャンネル2
(吹)レザボア・ドッグス
放送日時:2023年4月8日(土)19:00~、11日(火)10:00~
(吹)パルプ・フィクション
放送日時:2023年4月8日(土)21:00~、11日(火)12:00~
チャンネル:スターチャンネル3
※放送スケジュールは変更となる場合があります
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