青春ドラマから時代物、胸アツのヒューマンストーリーまで...進化が止まらない松山ケンイチにいま、注目したい理由
2023.3.29(水)

松山ケンイチの進化が止まらない。「このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」。そんなセンセーショナルな設定で一大ブームを巻き起こした人気コミックの映画化『DEATH NOTE デスノート』(2006年)で独特なフォルムと言動の名探偵Lを体現しブレイクすると、『神童』(2006年)、『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)、『カムイ外伝』(2009年)、『ノルウェイの森』(2010年)などの話題作で次々に主演を張り、何者にでもなれる「カメレオン俳優」「憑依型俳優」と呼ばれるまでに躍進。2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」ではNHKに自ら打診してタイトルロールの主人公役を手に入れ、全身全霊で挑んだこの清盛役で圧倒的な存在感と観る者の心を揺さぶる演技力を見せつけた。
■がむしゃらに取り組む第1章を経て、芝居を楽しむ余裕が見え始めた第2章
そこまでが第1章だとすると、どこか尖がっていて他者を寄せつけないピリピリしたところもあった松山にゆとりにも近い穏やかさと器の大きさが伴うようになったのが第2章だ。これはあくまでも個人的な感想だが、芝居を楽しむ余裕が少しずつ見え隠れし、それが役にも反映され始めたような気がする。
それこそ、2016年の『聖の青春』では体重を20kg増量する肉体改造で29歳の若さで亡くなった天才棋士・村山聖に見た目からなりきり、続く『ユリゴコロ』(2017年)では増量した体重を元に戻し、さらに10kg減量して過去に犯した罪から逃れられない男・洋介に。後者では洋介が眠れない設定だったため、撮影中は毎晩ゲームをしながら気絶するまで起きていて、筆者がインタビューした時には「(限られた期間の)非日常だから(そういうアプローチも)楽しめるんですよ」と語っていたものだ。
そんな松山の芝居がある一つの境地に達したのが、2021年公開の『BLUE/ブルー』で演じた瓜田信人役だ。瓜田は人一倍真面目で努力を重ねながらもまったく勝てず、一回り近く年が離れた後輩にもバカにされるプロボクサー。それでもボクシングを辞められず、身体が動いてしまう彼の切実な、狂おしい「生」を松山は全身で表現していたが、それはもはや芝居の域を超えたもの。そのスゴさを伝えるのに相応しい的確なワードも見当たらなかった。
■松山ケンイチの多彩な演技力がわかる3作品

(c) 2012「僕達急行」製作委員会
と、ここまで俳優・松山ケンイチの歩みと進化を駆け足で綴ってきたが、ここからは彼の多彩な演技力がわかる隠れた必見作3本を紹介していこう。
まずは2012年の『僕達急行 A列車で行こう』。本作は『椿三十郎』(2007年)、『サウスバウンド』(2007年)でもタッグを組んだ森田芳光監督のオリジナルストーリーの映画化で、監督も絶大な信頼を寄せる松山は、列車の窓から風景を眺めながらジャズを聴くのが趣味の鉄ちゃんの青年・小町を等身大で好演。
瑛太(現・永山瑛太)が扮した同じ鉄道好きの小玉と旅をしながら何気ない会話を楽しむ姿がほのぼのとした雰囲気の中で映し出され、2人のやりとりに思わず爆笑しちゃうことも。特に派手な芝居をするシーンはないが、松山の自然な身のこなしやセリフの一つ一つから本当に鉄道が好きなんだな~ということが伝わってきて、その姿に惜しくもこれが遺作となった森田監督の姿が重なったりもする。

(c) 2012「僕達急行」製作委員会
2021年の『ブレイブ -群青戦記-』の松山ケンイチも見逃せない。笠原真樹の人気コミックを「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督が映画化した本作は、「桶狭間の戦い」直前の戦国時代にタイムスリップしてしまったスポーツ名門校の高校生アスリートたちが、戦国武将たちと死闘を繰り広げるアクション・エンターテインメント。歴史マニアの蒼(新田真剣佑)が後に徳川家康となる松平元康(三浦春馬)と手を組み、友人たちを連れ去った織田信長の軍勢に立ち向かう姿を活写するものだが、この異色の時代劇で誰よりも異彩を放っていたのが蒼たちと敵対する織田信長に扮した松山だった。
その堂々たる風格と貫禄がとてつもなくて、出演シーンはそんなに多くないのに威圧感がハンパない。わずか数シーンで、アル・カポネ役を印象づけた『アンタッチャブル』(1987年)のロバート・デ・ニーロに匹敵する迫真の演技を見せ、映画自体の緊張感とクオリティを高めていた。

(c) 2021「ブレイブ-群青戦記-」製作委員会 (c) 笠原真樹/集英社
落語家・立川志の輔の新作落語「伊能忠敬物語 -大河への道-」を映画化した『大河への道』(2022年)では、主演の中井貴一、ヒロイン役の北川景子らと共に、松山の一人二役が楽しめる。現代パートでは、伊能忠敬を主人公にした大河ドラマの実現のために奔走する千葉県香取市役所の総務課課長・池本保治(中井)の部下でお調子者の木下浩章を演じた松山。上司の池本に対しても時折ため口で、ちょっと空気が読めないいまどきの青年の木下に嫌味を感じさせない絶妙な塩梅でなりきっていて面白い。

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ
江戸時代のパートでは伊能忠敬の遺志を継ぎ、日本地図完成を目指す天文学者・高橋景保(中井)の助手・又吉を体現。測量のシーンでは自ら大股で計測するなど、高橋に仕える又吉の真摯な性格を伝え、現代と過去で異なるキャラクターの人物を演じ分けていたのが印象的だった。

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ
そんな松山は先日、大河ドラマ「どうする家康」で家康に反旗を翻す家臣の本多正信を圧巻の芝居で演じ、こちらも大きな話題に。さらに、公開中の映画『ロストケア』では長澤まさみ演じる検事と対峙する連続殺人犯を、これまでのどの松山とも似ていない深い悲しみと闇を抱えた瞳で体現し、観る者それぞれの正義を問い質す。
だが、これはあくまでも俳優・松山ケンイチの通過点。これからますます大きくなっていく脂が乗りきった彼に、いまから再注目しておいたほうがいいだろう。
文=イソガイマサト
イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。
放送情報
ブレイブ -群青戦記-<PG-12>
放送日時:2023年4月4日(火)23:30~、9日(日)16:30~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
僕達急行 A列車で行こう
放送日時:2023年4月14日(金)16:55~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
大河への道
放送日時:2023年4月22日(土)20:00~、30日(日)8:35~
チャンネル:WOWOWシネマ
放送日時:2023年4月23日(日)11:30~、26日(水)18:00~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります
-
坂口健太郎が新生児医の葛藤や成長を繊細に表現!綾野剛主演ドラマ「コウノドリ」シリーズ
提供元:HOMINIS4/30(水) -
橋本環奈の振り切れた演技と原作への誠実さが実写化を成功に導く鍵に!コメディエンヌの才能を裏付けた「斉木楠雄のΨ難」
提供元:HOMINIS4/30(水) -
寺尾聰と岡田将生が描く年齢と立場を超えた友情に胸が温かくなる!有村架純、松坂桃李も共演の「ドラマW チキンレース」
提供元:HOMINIS4/30(水) -
紅ゆずるが落語ミュージカル「ANOTHER WORLD」で見せるコメディアンな一面!
提供元:HOMINIS4/30(水) -
反町隆史が演じる厳しくもピュアな社長が魅力的!綾野剛主演の温かで爽やかなドラマ「オールドルーキー」
提供元:HOMINIS4/30(水)