激動の時代を生きたパイロットの思いが伝わる名作「永遠の0」で岡田准一の演技に泣く!
2023.3.26(日)
精悍なマスクと、語りかけてくるような深みを持つ眼差し。荒ぶる時も静かな時も人間味を感じる声。高い演技力と揺るぎない人気を誇り、数多くの話題作に出演し続ける俳優・岡田准一。
今年に入ってからもその活躍は健在で、NHKの大河ドラマ「どうする家康」では織田信長役を務め、恐怖を覚えるほどの"圧"を醸し出してヘタレな家康を圧倒。また、5月公開予定の主演映画「最後まで行く」では、ある事件を発端に追い詰められていく刑事を演じる。時代や世界観が違っても、また、どんな役柄であっても演じ切れるのは、演技力の高さと幅広さがあってこそできることだろう。
岡田が主演した作品は数多くあるが、中でも強烈な印象を残したものが2013年に公開された映画「永遠の0」だ。太平洋戦争を舞台にした百田尚樹の同名小説を原作とした本作は、第38回日本アカデミー賞で最優秀作品賞など8部門を制するほどの高い評価を得、岡田自身も最優秀主演男優賞を受賞している。
本作で岡田が演じるのは、抜群の操縦技術を持ちながらも「海軍一の臆病者」と呼ばれ、最後は特攻で散っていったパイロット・宮部久蔵。物語は現代に生きる久蔵の孫・佐伯健太郎(三浦春馬)と佐伯慶子(吹石一恵)の姉弟が、祖母の死をきっかけに本当の祖父・久蔵について調べるという形で進行し、岡田演じる久蔵は、2人がその生き様を明らかにしていく過程で挿入される過去のシーンに登場する。
久蔵は開戦前から海軍航空隊に所属し、真珠湾攻撃にも参加していた。奇襲は成功し空母の兵たちは沸き立つが、味方の死を目の当たりにした久蔵は、自分が消えてしまうことを恐れるかのような重い表情で「怖いんです。私は死にたくありません...」と仲間に話す。また、その後ミッドウェーに転戦し、近くに敵空母が発見された時は、焦るあまり今にも心が潰れそうな表情を見せる。
お国のために命を捨てることが当然だった当時、久蔵のように生きることに執着する者は、臆病者とされても仕方のない時代だった。しかし周囲の反発も顧みず、なぜ久蔵がそういう考えを持ち続けているのかが、その後明らかになってゆく。
妻の松乃と、まだ赤子の娘・清子の写真が届いた時は、落ち着いた優しい声で家族への思いを語る。一度だけ自宅に戻った時は、清子に駆け寄り慣れない手付きで抱き上げ顔をしわくちゃにして喜び、出立の朝は毅然とした顔つきで決意の言葉を松乃にかける。「必ず、帰ってきます」と。
温かなシーンだけでなく、悲壮なシーンも数多くある。自爆を望む仲間には「お前が死ぬことで悲しむ人間はいないのか」と激高し、訓練で命を落とした予備士官を庇って上官に殴られるシーンでは、拳が到達する瞬間に固く目を閉じて耐える姿に胸が痛むほどだ。
そういった数々のシーンからは、家族や仲間、そして命を大切に思う久蔵の気持ちが伝わってくる。それを余すところなく伝え、見る者の心を揺さぶる岡田の演技はやはりさすがだ。
ご存知のように、戦局が悪化すると学徒動員が始まり、また、狂気とも言える特攻作戦が始まる。若い命が次々に散ってゆく悲惨な状況にあって、家族を想い、仲間を思う久蔵は大きな矛盾を抱えることになる。
抗い切れない時代の流れの中で、「必ず、帰ってきます」と誓った彼が特攻という道を選んだのはなぜなのか。そんな久蔵の生き様を、現代の若者・健太郎や慶子はどう思うのか。海に散った久蔵の生き様と、その思いを十分すぎるほどに伝える岡田准一の演技から、戦争の悲惨さと命の大切さを感じ取ってほしい。
文=堀慎二郎
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