松たか子の映画初主演作――岩井俊二監督「四月物語」で輝く若き日の瑞々しい演技
2026.2.28(土)
ドラマや映画、舞台などでも常に存在感を放ち続ける俳優・松たか子。昨年は主演映画「ファーストキス 1ST KISS」で松村北斗との初共演が話題となるなど、幅広いジャンルで長く活躍できるのは、役者としての地力がしっかりしているからこそだろう。
そんな松の記念すべき映画初主演作となったのが、1998年に公開された「四月物語」だ。監督は独特の映像美で知られる岩井俊二で、岩井作品ならではの空気感と、当時20代になったばかりの松の瑞々しい感性が見事に溶け合った名作だ。
■新しい世界の入口に立つ主人公の心境を松たか子が体現
松が演じるのは、大学に通うために故郷の北海道を離れ、東京で一人暮らしを始めた楡野卯月。雪が積もった駅での旅立ちのシーンでは、父役として出演している松本幸四郎(現・白鸚)の姿を見ることもできる。
東京の団地のシンプルな部屋で、卯月の新しい生活は始まる。何もない部屋を見回したり、畳の上でゆっくりと身体を傾けて横になったり、引っ越し業者に荷物を運び込んでもらう時に大わらわになったり。そんな何気ないシーンからは、自分が人生の転機にいることを実感している様子や、新しい道をしっかり歩もうという卯月の気持ちが伝わってきて微笑ましい。
そして大学が始まり、卯月の学園生活が始まる。クラスでの自己紹介のシーンでは緊張した様子で、初々しさが感じられる。気になるのは、なぜこの大学を受けたのか?と聞かれてうまく答えられないこと。言葉を濁し、視線を彷徨わせるところを見ると、そこに卯月にとって大切な何かがあるのだろう。物語のポイントとなる場面で卯月の心情を自然に伝えてくる松の演技力はやはりさすがで、卯月が心に何を秘めているのかが知りたくなって、作品の世界へ引き込まれていく。
■ふとしたことで変化する表情...その理由が明かされる過程での松の演技は魅力にあふれている
(C)1998 ROCKWELL EYES INC.
友人と一緒に釣りのサークルに入ったり、団地の隣人を食事に誘ったり、新しい生活の中でのさまざまな出会いに、ちょっとクスッとしてしまうような場面を交えながら、物語はゆっくりと展開していく。そんな中で、卯月の表情の変化が気になるシーンも増えていく。
釣りサークルの先輩が「プレゼントする」と言って、卯月のカーディガンのボタン穴にルアーを引っ掛けた時には硬い表情となり、東京に来てから通うようになった書店で、店員が在庫を探して近づいてきた時は、驚いたように身を引く。
そういった表情の変化の理由はやがて明らかになるのだが、その過程も見どころだ。故郷の草原で本を手にしている回想シーンなどは、柔らかな生命力が感じられると同時に温かな色香が漂っているし、その後、現在に戻って、雨の中壊れた傘を手にしながら見せるしっとりとした表情も、想いがこもっていてとても魅力的だ。
本作は、楡野卯月という学生の人生の一幕を切り取った物語だが、俳優・松たか子の若き日の魅力がしっかりとスクリーンに映し出されている作品でもある。本作でぜひ、瑞々しくて味わいのある松の演技をじっくりと堪能してほしい。
文=堀慎二郎
放送情報
四月物語
放送日時:2026年3月26日(木)21:00~
チャンネル:フジテレビTWO ドラマ・アニメ(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合があります
出演:松たか子 田辺誠一 加藤和彦 ほか
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