「一分将棋の神様」、「ひふみん」こと加藤一二三九段の現役時代のエピソードを紹介!
2026.2.25(水)
1月22日に「ひふみん」こと加藤一二三九段が86歳で亡くなった。テレビでは愛されるキャラクターで有名だったが、棋士としては数々の実績、記録を持つ超一流だ。今回は加藤九段の様々なエピソードを見ていきたい。
加藤の強さを表す呼び名が「一分将棋の神様」だろう。将棋界では早指し棋戦を除き、基本的に持ち時間を使い切ると最後は一分以内に着手をしなくてはならなくなる(いわゆる秒読み)。長考派の加藤は序盤から惜しみなく時間を使う。全盛期の棋譜を見ると、駒がぶつかるあたりで6時間の持ち時間をほとんど使い切っていることも珍しくない。通常、どれだけ手の読める人であっても、秒読みになると時間に追われて着手が乱れやすく、ゆえに時間で追い込まれるのを嫌う棋士も多い。だが、加藤は時間を使い切って一分将棋に入ってからも強い。時間責めをしようとした相手の棋士が、かえって指し手が乱れることもあるくらいだ。常に時間を使い切るが、そこからが強いためこの呼び名が付いた。一分将棋に入ってからも記録係に「あと何分?」と残り時間を聞く癖も有名である。
よく誤解されがちなのは、長考派は時間を使いたがるため、早指しは苦手と思われることだ。これは逆で、時間がなくなってからも手が読める自信があるため、惜しみなく時間を使うこともでき、また日頃から一分将棋の経験が多いため、30秒将棋はむしろ強いとも言える。将棋界で最も歴史の長い早指し戦であるNHK杯将棋トーナメントでは羽生善治九段(11回)、大山康晴十五世名人(8回)に次ぐ、7回の優勝を記録している。現代でも藤井聡太竜王・名人も時間が切迫してからも強いため、タイトル戦での大長考はしばしば見られ、時間を多く残すことはほとんどない。
最近は棋士の食事が注目されるようになった。少し前では丸山忠久九段、最近では佐々木勇気八段もタイトル戦で大量の食事を取ることで有名だが、その元祖は加藤かもしれない。60代を過ぎても昼、夜ともにうな重を注文するなど、その食欲は衰えるところを知らなかった。また、タイトル戦で大量のミカンを頼み、対局相手も張り合ってお互い食べ続けたこともあるという。歴代最長の現役期間、最多対局数を誇る加藤だが、一度も休場や不戦敗がなく、その体力と健康を維持できたのもこの食欲あってこそだろう。
加藤が名人を奪取した第40期名人戦七番勝負は激闘だった。名人戦は通常、4月に始まってフルセットになっても第7局が6月に行われるが、この時は3勝3敗、2千日手1持将棋で10局目に突入した。現在は千日手になっても即日指し直すことが多いが、この頃は日を改めて対局している。最終局は7月末と、4ヶ月近くに渡る長丁場で、名人初挑戦の第19期から、21年越しでの獲得となった。この最終局でも、一分将棋の中で相手の玉を即詰みに打ち取っている。似たような例では第5期叡王戦七番勝負での、2持将棋1千日手でフルセットになったシリーズもある。
加藤は藤井聡太竜王・名人のデビュー戦の相手にもなった。この時も昼食休憩中に指す新手を披露し、藤井を驚かせている。
このようにエピソードに事欠かない加藤。棒銀と矢倉を得意とする重厚な居飛車党だ。数多くの名局を残しているので、機会があれば魂のこもった棋譜を並べてほしいものだ。特に消費時間が分かるものであれば、「一分将棋の神様」のすごさを体感できるだろう。
文=渡部壮大
放送情報
(将棋)「棒銀とともに熱闘60年」加藤一二三
放送日時:2026年2月27日(金)22:00~
放送チャンネル:囲碁・将棋チャンネル (スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合があります。


