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満島ひかりの"抑制された情熱"を感じさせる演技!艶っぽい表情から目が離せない「駆込み女と駆出し男」

2026.2.19(木)

天保12年、老中・水野忠邦による「天保の改革」が江戸の町を覆っていた。贅沢は敵、娯楽は悪。人々の暮らしから色彩が失われ、閉塞感が漂う時代。そんな時代背景を逆手に取り、軽妙なリズムと深い人間ドラマを融合させたのが映画「駆込み女と駆出し男」である。

本作の舞台は、幕府公認の縁切り寺・東慶寺。現代とは異なり、女性側から離縁を切り出すことが許されなかった時代において、東慶寺は虐げられた女たちの「最後の砦」であった。そこに駆け込む二人の対照的な女性――顔を焼かれ暴力を振るわれた職人・じょご(戸田恵梨香)と、豪商の愛妾として華やかに振る舞いながら突然姿を消したお吟(満島ひかり)。彼女たちが医者見習いの信次郎(大泉洋)と出会うことで、物語は静かに、しかし力強く動き出す。

中でも、物語の精神的支柱とも言える妖艶さと哀しみを見事に体現した満島ひかりの演技は、観る者の心に深く突き刺さる。物語の序盤、満島ひかり演じるお吟は、観客にとって「謎」の存在である。堤真一演じる堀切屋の主人・三郎衛門の愛人として、何不自由ない暮らしを送り、天保の質素倹約などどこ吹く風とばかりに派手に遊んでいた彼女が、なぜすべてを捨てて泥まみれになりながら山道を走るのか...。

■膨大な台詞量を圧巻の演技力で魅せる

満島ひかりの美しさと圧倒的演技力で表現されたお吟に注目
満島ひかりの美しさと圧倒的演技力で表現されたお吟に注目

(C)2015「駆込み女と駆出し男」製作委員会

東慶寺に入るにあたっての尋問(聞き取り)に対し、彼女が自身の生い立ちを語るシーンは圧巻だ。とうとうと流れるような早口、一切の淀みを感じさせない言葉の礫、それでいて、視線ひとつに宿る抗いがたい色気。満島は、この膨大な台詞量を単なる「説明」に終わらせない。リズムに乗った言葉の端々に、江戸の女としての矜持と、隠しきれない虚無感を滲ませる。彼女が放つ妖艶さは、決して男を誘惑するための武器ではなく、自分の運命を自分でコントロールしようとする強い意志の表れなのだ。

物語の中盤から終盤にかけて、お吟がひた隠しにしてきた「駆け込みの真意」が明らかになる。「胸の内の苦しさ、悲しみ」が浮き彫りになる瞬間、満島ひかりの演技はさらなる深化を見せる。それまでの饒舌さが嘘のように、沈黙や微かな震えが彼女の苦悩を代弁する。観客はここで、彼女がどれほどの覚悟を持って「粋」を演じ続けてきたかを知るのだ。

満島ひかりという俳優は、これまでも「愛のむきだし」(2009年)や「川の底からこんにちは」('2010年)、あるいはテレビドラマ「Woman」(2013年)などで、魂を削るような剥き出しの感情表現を見せてきた。彼女のパブリックイメージは、どこか"脆さと隣り合わせの狂気"や"叫び"にあることが多い。

■満島ひかり演じるお吟と戸田恵梨香演じるじょごの関係性にも注目

(C)2015「駆込み女と駆出し男」製作委員会

しかし、この「駆込み女と駆出し男」における彼女は、それらとは一線を画す。本作では、感情を爆発させるのではなく、江戸の美徳である"粋"というオブラートで包み込んでいる。叫びたいほどの悲しみを、あえて早口な冗談や艶っぽい微笑みの下に隠す。

この"抑制された情熱"こそが、彼女のキャリアの中でも特に成熟した魅力を放っている。また、これまでの作品では「守られる側」や「孤独に耐える側」が多かったが、本作ではじょごを導き、支える「姉」のような包容力を見せる。自らの死を予感しながらも、他者の未来を照らそうとするその眼差しは、慈愛に満ちており、彼女の演技の幅がさらに広がったことを証明した。

「駆込み女と駆出し男」は、江戸という不自由な時代に抗った女たちの記録である。その中心で、満島ひかりは"女の意地"と"深い愛"を、これ以上ないほど美しく、そして切なく演じきった。本作に刻まれた彼女の残り香は、映画が終わった後も、いつまでも消えることはないのである。

文=石塚ともか

放送情報

駆込み女と駆出し男
放送日時:2026年3月8日(日)9:00~ほか
放送チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・ドラマ・音楽(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合があります。