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渡辺謙の静かな迫力...確かな演技力で"刑事の重さ"を体現!北村一輝が出す、独特な不気味さも注目「横山秀夫サスペンス「沈黙のアリバイ」

2026.1.8(木)

小説家の横山秀夫は、上毛新聞の記者を経て作家に転身。「半落ち」や「64(ロクヨン)」、「クライマーズ・ハイ」といった代表作の多くが映像化され、ヒット作も数多い。特に警察小説を得意とし、中でも「第三の時効」(集英社)は、6作の短編が収録された傑作としてファンにも評価が高い。

その6作をすべてドラマ化したのが、2002年から2005年に放送されたTBS系「横山秀夫サスペンス」だ。今回は、その第1作「沈黙のアリバイ」(2002年)をご紹介したい。

■「笑わない男」という強烈な主人公を演じる渡辺謙の静かな迫力

原作小説は「F県警シリーズ」とされるが、本作では山梨県警本部の強行犯捜査係を舞台に設定し、主人公の朽木泰正警部を渡辺謙が演じている。山梨県警捜査一課の警部・朽木(渡辺謙)は笑わない男だ。9年前に事件現場へ車で急いでいた時に、少女をはねて死なせてしまい、母親からの「あなたは二度と笑わないでください。この子は二度と笑えないのだから!」との言葉に衝撃を受け、朽木は笑うことを完全に忘れた。

以降の朽木は、その母親の言葉を振り払うように仕事に打ち込んできた。ある日、担当する現金強奪殺人事件が第一回公判を迎える。パチンコ店の売り上げを積んだ現金輸送車を二人の男が襲い、警備員二人を射殺。巻き込まれた小さな女の子が死んだ悲しい事件だ。主犯は逃亡し、共犯者の湯本(北村一輝)が逮捕された。物証がなく取り調べは難航したが、朽木の部下の島津(大浦龍宇一)が湯本を自白させたのだった。

だが公判の日、湯本は「すべては警察のでっち上げで、自分にはアリバイがある」と自白を翻す。法廷は騒然となり、閉廷が宣告された。だが朽木は、湯本が嘘をついていると直感し、事件の真相に迫っていく...。

過去の事故をトラウマとして抱えて苦悩する朽木の心理は、表情、沈黙、間の取り方といった渡辺の演技の技術により、視聴者にしっかり伝わる。声を荒げることもなく、説明セリフがほとんどないのに、朽木の苦悩を想像できるのだ。視聴者にはわずかな目線の揺れや呼吸の変化から、朽木の「迷い」が伝わる。この男が「重いもの」を背負っていることを見る者に理解させ、納得させてしまう。そんな芝居ができる俳優は決して多くない。派手な演技を封印し、感情を抑制しながらも沈黙と視線、間の取り方だけで主人公の朽木を完成させたと言ってもいい。

取り調べの場面では、机を叩いて相手を威圧するようなことは一切しないし、大声で怒鳴ることもない。それでも、場の空気を支配する力がある。むしろ、低く抑えた声のトーンや相手を凝視する目線の強さ。さらに長い「沈黙」によって、相手を圧する。これほど「黙っている」ことの怖さを感じさせる刑事は、ドラマ史上でも珍しいのではないか。渡辺謙が、横山秀夫作品で最も重要な「"刑事の重さ"を、説得力をもって体現した俳優の一人」と評価されるのも当然かもしれない。

■原作よりも立体的に描かれる容疑者役の北村一輝も好演

渡辺謙の圧倒的演技力と北村一輝が醸し出す不気味さに注目!
渡辺謙の圧倒的演技力と北村一輝が醸し出す不気味さに注目!

また、本作の価値は、原作小説よりも北村一輝演じる湯本直也の存在感を強めた点にもある。原作での湯本はいわば「機能的な存在」として登場し、感情や背景はほとんど語られない。警察の判断を揺さぶる存在に終始している。ただし本作では、北村一輝の見事な演技によって、狡猾さや不気味さが強調され、より立体的な人物として描かれている。だからこそ、彼のアリバイを崩そうとする朽木の存在がより生きるのだ。北村の演技も印象深く、大いに存在感を発揮している。特に当時は、独特な不気味さを表現するのが非常に巧かった。

ただし、本作の魅力は、やはり渡辺謙の演技の凄みに尽きるだろう。渡辺謙と言えば、代表作の「独眼竜正宗」や「藤枝梅安」など、圧倒的なヒーロー性の印象が強かった。本作の朽木は、決して強いヒーローではなく、正義の確信も揺らいでいるところがある。「正しい人」ではなく、「刑事という職務に縛られた人」という見方もできる。

それでも、「何かを背負う男」の苦悩や悲哀を静かな迫力を持って演じ切った点が素晴らしい。後年の映画「ラストサムライ」(2003年)や「明日の記憶」(2006年)、「許されざる者」(2013年)の主人公たちにも繋がる気がする。初回放送当時にも、「渡辺謙が演じると、刑事が"職業"ではなく"人生"になる」とか「何も起きていない場面が一番印象に残る」といった声が寄せられ、評価は極めて高かった。

そんな渡辺の演技を堪能できる「沈黙のアリバイ」がTBSチャンネル2で放送される。取り調べや裁判、アリバイ崩しを巡っての緊迫した展開と、横山秀夫作品ならではの心理戦と人間ドラマをたっぷり味わってほしい。

文=渡辺敏樹

放送情報

横山秀夫サスペンス「沈黙のアリバイ」
放送日時:2026年1月16日(金)8:40~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ(スカパー!)
出演:渡辺謙、北村一輝、余貴美子、寺田農、矢崎滋、橋爪功 ほか
※放送スケジュールは変更になる場合があります。