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山田裕貴、現場で譲らなかった"主人公の信念"「『絶対に嫌です』と...」映画『爆弾』インタビュー

2025.10.27(月)

山田裕貴が主演を務める映画「爆弾」が10月31日(金)に公開される。

呉勝浩のベストセラーを実写化した本作。酒に酔って暴行をはたらき、警察官に連行された謎の中年・スズキタゴサク(佐藤二朗)。彼は取調室で霊感があると言い、爆破事件を予知する。さらに、警視庁の交渉人・類家(山田裕貴)らにあるクイズを出題して...。

今回は山田にインタビューを実施。佐藤との取調室シーン、頭が切れる類家についてなど、あますところなく語ってもらった。

――公式HPで類家について「当て書きかと思った」とコメントされていました。どんな印象を持ったのでしょうか

「もともと映画『東京リベンジャーズ』でお世話になり、プライベートでもよくしてくださっているプロデューサーさんが、『本当の山田裕貴はこれだろ』と言ってくださったのが『爆弾』の類家でした。確かに原作を読み進めるたびに共感が止まりませんでした。これは、『自分は頭がいいと』言っているわけではなく(笑)、彼の"想い"の部分で共感するところが多々ありました」

――特にどんなところに共感を覚えましたか?

「もちろん僕は幸せを知っているし、日常も楽しいので、すべてを諦めているわけではないんです。ただ、『誰かの心を救えたら』で始めたこのお仕事も、命までは救えないじゃないですか。そこに対して冷めているわけではなく、"仕方ないよな"と受け入れてるイメージです。

現実の世界では生まれてくる命もあるけれど、地球のどこかで戦争は起こっていて、毎日誰かが亡くなっている。もちろん悲しむ心も持ってはいるけど、いざタゴちゃん(タゴサク)みたいな人を目の前にすると、類家が言っていたような『いつでもどこでも人は死ぬ』のような言葉を言ってしまうんだろうな...と感じる部分があるんです」

――エリートの類家を演じる際、彼の「これまでの人生の歩み」を考えることもあるのでしょうか?

「ありますね。多分友達とも話が合わなかっただろうし、恋人がいたとしても、"考えてること薄っ!"と思っていたんでしょうね。たとえば、相手が腹を立てているときも、"人間の脳がこういう構造だから、本能的にそういう感情になっちゃうんだろうな"と冷静に頭で考えたり。勉強や仕事もできるから、上司にも"その仕事無駄じゃない?それをなんで警察のトップがやってんの?社会ってそういうもの?"と思ってる。そうやって"アホらしいな〜"と思いながら毎日生きているわけです。となると、人と関わらない方がいいんです。『腹いっぱいメシを食う』が幸せであることで、彼の人生が成り立っているだろうなと」

――類家と不気味なタゴサクの取調室シーンは、本作の見どころのひとつです。佐藤さん演じるタゴサクと対峙してみていかがでしたか?

「いろいろな表情であったり、瞳の奥に思っている感情だったり、タゴちゃんの"気持ち"が飛んでくるのを類家としてどう受け止めるかを考えていました。二朗さんはどう感じられたかは分かりませんが、『ただ台詞を交わしている』以上のことができたんじゃないかと思いますし、目だけで会話できたのが楽しかったですね」

――佐藤さんと対峙する前、なにか準備はされていたんですか?

「もちろん準備はしますけど、"準備して行ったらこうなっちゃった"という場面が多かったように思います。(類家はタゴサクの)様子を伺う場面が多かったので、流れのなかで生きられましたが、二朗さんは台詞量が多いし、決まりの動きもあるから、より準備が必要。類家よりも、タゴサクのほうが"表現"に対してのロジックはあるのかな、という印象です」

――タゴサクは並大抵の交渉人では太刀打ちできない相手です。なぜ類家は折れずに目の前にいることができたのだと思いますか?

「そこで諦めちゃったら、タゴちゃんと一緒になっちゃうからじゃないですかね。類家自身もタゴちゃんの一歩手前というか、ギリギリのところに立っていると思うんです。

それは僕もすごくよく分かることなんですよ。(劇中で起こっていることを)自分の日常に置き換えると、たとえば"スケジュール的に無理。現場に行かない。どうなってもいいじゃん!"と仕事をサボることはできますが、それをやると『あいつは来なかった。ワガママだ』となるし、守ってくれる人もいない。それを避けるために、自分を保つわけです。それができるのが類家であり、できなかったのがタゴちゃんというイメージですね」

――完成された作品をご覧になって、どんなことを感じましたか?

「メッセージ性のある作品だなと思いました。タゴちゃんみたいな人が現れないと、人は変われないんだろうなと思うというか。もちろん"(劇中で発生する)あんなこと"は絶対に起こってほしくはないですが、僕も含めて人間は、自分に悲しいことが降りかからない限り楽観視しているし、気づかないんだろうなと思うんです。なかでも、この映画のあるシーンを観て『ウッ...!』と思う人がたくさんいそうだなと」

――本作を手がけた永井聡監督について、どんな印象をお持ちですか?

「『監督がこの作品にものすごく愛情を注いでる』という話を聞いたのですが、それもあってか、カットされているシーンが多いんです。撮ったのに使わなかったのにはその理由があるはずで、それは(本作に愛情を注ぎ込んだ)監督にしか分からないことでもあると思っていて。

実は今回のラストも、台本には描かれていたあるシーンをバッサリカットしていました。そこに"なんでカットしたんだ!"と怒っているのではなく、どういう意図や想いがあったのか、すごく気になっていて...。別現場でお会いした際、お聞きしましたが教えていただけませんでした。面白い方だなと思いました」

――そんな監督とは撮影中どんなやりとりがあったのでしょうか?

「劇中、類家はクイズで遊んでいるタゴちゃんに対して『こいつを倒す』と思っているわけです。彼にとって、電話や会議室に行くとき以外で椅子から離れるのは、『リングから降りる』と同じこと。だから、監督から『歩き回って推理をしてほしい』、『ちょっと立ってほしい』と言われても、『絶対に嫌です』と譲らずにいました。撮影が終わったあと、監督に『一番言うことを聞かなかったね』と言われたのですが、でもそれも類家っぽいなって(笑)」

――山田さんのなかに確固たる類家のキャラクター像があるんですね

「そうですね。対峙していてもタゴちゃんから視線を外したくないし、何も逃したくはない。『取調室を歩きながら...』とか『情で落とす』とか、そんなの通用しない相手だと分かっているから、ずっとそこに座って相対している...。監督にこうしたことがやりたいんだ、と伝えたら、『いや画角がね...』と。もちろんそれも分かるのですが、『監督、信じましょうよ』と説得しました」

文・写真=浜瀬将樹

公開情報

映画「爆弾」
公開日:2025年10月31日(金)
原作:呉勝浩
監督:永井聡
出演者:山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、渡部篤郎、佐藤二朗ほか