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マッツ・ミケルセン、「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」で描く"禁断の愛"――北欧の至宝が語る歴史劇の裏側

2025.10.23(木)

『ロイヤル・アフェア愛と欲望の王宮』
『ロイヤル・アフェア愛と欲望の王宮』

2025年11月22日に60歳の誕生日を迎える、デンマークが誇る名優マッツ・ミケルセン。

プロのダンサーとして約10年のキャリアを経て『プッシャー』(1996)で映画デビューを果たしたミケルセンは、ニコラス・ウィンディング・レフンやトマス・ヴィンターベアといった巨匠のもとで研鑽を積み、『偽りなき者』(2012)で第65回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。さらに『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)で世界的ブレイクを果たし、ドラマ『ハンニバル』(2013〜2015)では圧倒的な存在感を放つなど、名実ともに現代デンマークを代表する俳優として不動の地位を築いてきた。

その節目を記念して、「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」が11月14日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で開催される。

日本劇場初公開作品を含む全7作が一挙上映される「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」
日本劇場初公開作品を含む全7作が一挙上映される「〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」

本生誕祭では、日本劇場初公開となる貴重な作品を含む全7作を一挙上映。若き日のマッツを堪能できる『ブレイカウェイ』(2000)や『フレッシュ・デリ』(2002)、長らく未公開だった『メン&チキン』(2015)のほか、『アダムズ・アップル』(2005)、『アフター・ウェディング』(2006)、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(2012)、そして代表作『偽りなき者』(2012)まで――俳優としての軌跡をスクリーンで追う、まさに"北欧の至宝"の輝きを体感できる特別企画となっている。

今回、デンマーク王室最大のスキャンダルを描いた歴史劇『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(2012)から、マッツ・ミケルセンのインタビューを特別公開。

アリシア・ヴィキャンデル演じる王妃と禁断の恋に落ちる王の侍医ストルーエンセを演じた彼が、ベルリン国際映画祭で脚本賞&男優賞(ミケル・ボー・フォルスゴー)をW受賞した本作を通して語る、"愛と理性の狭間で生きた男"の苦悩と、その奥にある真実とは――。

――あなたの演じたキャラクターは大きな苦悩を経験します。彼が持つ思想や独自性について教えてください

「ストルーエンセの思想自体は、当時として特別に斬新というわけではありません。ヴォルテールなど同時代の思想家がすでに広めていた考えを、彼もまた信じていたにすぎません。ただ彼自身は革命を起こそうと積極的に動いていたわけではなく、医師として満足していました。けれども国王と出会い、王を支え、彼に自分の意見を持たせようとする中で、気づけば権力の中枢に近づいていった。最初は他人が王の耳元で囁くことを嫌悪していたのに、自分も同じことをしてしまう。もちろん彼には「善意」があったと本人は言うでしょうが」

『ロイヤル・アフェア愛と欲望の王宮』
『ロイヤル・アフェア愛と欲望の王宮』

――しかし物語の通り、やがて彼は王妃との関係にのめり込みますね

「頭ではなく心で動いてしまった結果ですね。彼は王妃と激しく愛し合うようになります。王、王妃、そしてストルーエンセ。3人がそれぞれ違った形で愛し合ってしまったために、事態は非常に複雑になります。国を導く立場にありながら王妃との関係を隠し、しかも二人の間に子供までできてしまう。本当に困難な状況でした。王妃の手紙からも、二人が激しく情熱的な恋をしていたことが確かにわかります」

――この物語は実話に基づいていますが、デンマーク人としてこの歴史をどう認識していましたか?

「デンマークでは誰もが知っている話です。簡単に言えば『ドイツ人医師がやって来て、王妃と関係を持ち、国を支配し、やがて処刑された』というのが一般的な理解でしょう。でも掘り下げていくと、もっと複雑で多面的な物語が浮かび上がってきます。私たちも事実すべてを知ることはできません。推測や記録をもとに、どんな人間だったのか、なぜそうしたのかを想像するしかないのです。」

――歴史劇ですが、デンマーク語で撮影されたことも印象的でした

「母語であるデンマーク語で演じられるのは嬉しいことです。ただ実際の宮廷ではフランス語やドイツ語が使われていて、デンマーク語は農民の言葉でした。それでも映画としてはデンマーク語で統一することで、物語を自分たちの文化のものとして描けたと思います」

――ご自身は国際的にハリウッド作品でも活躍されていますが、北欧映画にこだわり続ける理由は?

「それは自分の文化的な基盤だからです。母語で芝居ができる環境はやはり居心地がいい。外国映画では『フランス語を話せ』『ピアノを弾け』『ロシア語を学べ』といった課題が重なりますが、デンマークに戻るとすぐに役に集中できる。だから今後も続けていきたいですね」

『ロイヤル・アフェア愛と欲望の王宮』
『ロイヤル・アフェア愛と欲望の王宮』

――ミケル・ボー・フォルスゴーが映画初出演で国王・クリスチャン7世を演じました。彼の「狂気」をどう見ましたか?

「私の演じたストルーエンセと同じように、まず「愛情」をもって見ていました。王には子供のような無邪気さと不安定さが同居していて、とても複雑な存在です。ミケルにとっては初めての映画で大変だったと思いますが、彼は「狂気のバージョン」と「無邪気な子供のバージョン」を演じ分け、その振れ幅が作品を豊かにしました。本当に難しい役どころでしたが、見事にやり遂げたと思います」

――彼をサポートすることもありましたか?

「彼自身がどんどん自信をつけ、議論に加わり、俳優としての存在感を主張するようになりました。私は背中を押す程度で十分でしたね」

――アリシア・ヴィキャンデルについて。彼女の魅力は何でしょうか?

「彼女は素晴らしい女優ですし、カメラが彼女を愛している。小さな仕草までもがスクリーンに映える。それはお金では買えない才能です。私たちも羨ましいくらいです」

監督ニコライ・アーセルとマッツ・ミケルセン
監督ニコライ・アーセルとマッツ・ミケルセン

――監督ニコライ・アーセルの演出スタイルについては?

「非常に精密で、映像的にも巧みな監督です。ただスタイルだけではなく、役者に寄り添い、感情を引き出す力を持っていました。歴史劇をただ形式的に撮るのではなく、観客が心を動かされる作品に仕上げてくれました」

――デンマークを離れているとき、一番恋しくなるものは何ですか?

「やはり家族です。それから母語であるデンマーク語、そして地元の食べ物。国そのものの美しさというより、自分の『基盤』であることが大切なんです」

――デンマークについて世界で誤解されていることがあるとすれば?

「どんな国もそうですが、メディアや本だけでは本当の姿は伝わりません。実際に訪れ、その空気を感じることが必要です。だから興味がある人にはぜひデンマークに来てほしいですね」

文=HOMINIS編集部

公開情報

『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』
(2012年/デンマーク/監督:ニコライ・アーセル)
ベルリン国際映画祭 脚本賞&男優賞W受賞。デンマーク王室最大のスキャンダルを描いた歴史劇。

〈北欧の至宝〉マッツ・ミケルセン生誕60周年祭
2025年11月14日(金)より
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国公開
配給・宣伝:シンカ/パブリシティ:ポイント・セット

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