アユニ・Dが野音ライブを語る「生きざまは全部見せられたと思います」
2025.10.12(日)

アユニ・D率いるPEDROが、8月11日に日比谷野外大音楽堂で開催した「PEDRO Special One-Man Show「ちっぽけな夜明け」」。アユニ・Dにとって野音は、BiSH加入後の初ツアーファイナルで立ったこともあり、「PEDROとして必ず立ちたい」と願っていた場所だ。そんな特別な公演を、MTVでは、ライブ映像に加えてインタビューや貴重な密着映像を交えた特別番組として放送する。放送に際して、アユニ・Dに野音ライブを振り返りつつ、見どころを聞いた。

奇跡的に野音に立つことができ、ターニングポイントになった
――まずは今回の野音ライブを振り返っていかがでしたか?
「やれることを全部やったという感じです。今は肩の荷がようやく下りて、客観的に捉えることができますけど、突然決まったライブに一カ月半突き進んでいく中では、プレッシャーもありつつ、全部ぶちかまそうと立ち向かった日々でした。反省点はありつつも、とても前向きな気持ちで立てたステージだったと思います」
――特別な場所だという、野音についての思い入れについて改めて教えて下さい。
「16歳でBiSHに加入してすぐにツアーを回ってファイナルが野音。それが加入して2カ月のことで、まだ右も左もわからない...。画面越しに見ていたメンバーについていくのが精一杯という状態で野音に立ち、達成感というより、がむしゃらに走っている中での野音だったんです。だからこそ、喜怒哀楽がしみこんでいる舞台だと思っていました。その後は自分が好きなバンドの演奏を野音で見る機会もたくさんあり、自分もいつかバンドとしてここに立ちたいという思いを馳せてきた。だけどこの10月から使用休止になるので、正直諦めかけていた部分もありました...。だから、建て替え前に奇跡的に野音に立てたことは、自分にとってターニングポイントだし、ここから新たなスタートだなという気持ちで立ちました」

――野音で見たバンドで刺激を受けた存在は?
「なんといっても、PEDROのサポートギタリストでもある、田渕ひさ子さんが所属しているNUMBER GIRLのライブです。私は、音楽シーンや音楽カルチャーに詳しくなかったけど、ひさ子さんと出会って、音楽がすごく好きになり、前のめりになっていった。そんな自分の原点のような方の、バンドの再結成のライブを野音で見ることができた。まさに伝説的な瞬間だったので、忘れられないですね。幻だったバンドが目の前で演奏していることが、現実と非現実の狭間にいるような不思議な感覚で、とても感動しました。客席で見ていた憧れの人が、同じ野音の舞台で自分の隣に立っているのは、まさに夢のような気持ちでしたね」
――当日は、どんな思いでステージに立ちましたか?
「正直なところ、プレッシャー120%の状態でした...(笑)。もちろん、楽しみな気持ちが最初はあったけど、新譜の制作だったり、ツアーが一段落して自分自身と向き合っている期間でもあったので、プレッシャーが増していき...。ただ、身近にいる人やチームの人たちと向き合う時間も増え、プレッシャーに立ち向かう気持ちが強くなって、当日を迎えられた感じでしたね。野音までの一カ月は、ほとんどライブがなかったこともあり、人前に立つこと自体がプレッシャーにもなってきて...。10年ほどこの仕事をやってはいても、未だに慣れない。大勢の人を目の前にした時に感じるエネルギーって、やはり想像以上のものがあるんです。なので、自分でも相当な覚悟を決めて本番に臨みましたね」

――9年前の野音とは違った景色が見えたのでしょうか?
「9年前も今回も無我夢中で立ったステージだったので、気温とか熱量とか、感じる余裕が正直なかったです。ただ、9年前は喜怒哀楽の様々な感情が込み上げて整理できないまま立っていたのですが、今回は、整理できない感情もなるべく言葉にして咀嚼した上で舞台に立つことができた。負の感情を一切抜きにして、お客さんの顔を見られたことは、大きな違いだったと思います。お客さんがとても前向きな表情でこちらを見つめてくれたという印象があります」
――BiSH解散からの2年間については、どのような日々でしたか?
「周りの人たちに、めっちゃ迷惑かけた2年でした(笑)。引っ越しして断捨離したり、今までやっていないこともしたりして、大事なことを一方的に突き放すようなこともした。生活から音楽活動まで、破天荒な2年でした。それでも見守ってくれる人がいたり、待ってくれる人もいた。今は『ただいま』と伸ばした私の手を『おかえり』と、握り返してくれる人がいる。私が無茶な挑戦をしようとしても、安易に止めずに自由にさせてもらえる環境だったことに、いくら感謝してもしきれないですね。こんなに私を支えてくれた人たちに、これからいい思いをしてもらわなくちゃ、私が音楽をやっている意味がない。今後の10年、20年に向かっていく糧になった2年間でもあったと感じています」

「ちっぽけな夜明け」というワードに込めた想い
今までの自分の生きざまをすべて見せた
――今回のミニアルバムのタイトルにも冠された「ちっぽけな夜明け」という言葉に関して、どんな思いが込められていますか?
「そもそも新譜制作をしていた時に掲げていたタイトルを、野音で初披露しようという話になったんです。"ちっぽけ"というナイーブな表現と、"夜明け"という暗闇が明るくなるポジティブな表現が『アユニっぽいね』と言ってもらえて、たくさんの候補の中から決まったのですが、最初はあまりしっくりきてなかったんですよ。でも徐々に実感できるようになった。と言うのは、様々な悩みで心に闇を抱えた時に、勇気を出して誰かに自分の気持ちを話したりして、点と点が線になるような瞬間があるんです。そういう時はたいてい朝の4時、5時で、自分には光が当たらないとか思い込でいても、必ず朝は来るわけで。こんなちっぽけな私にも夜明けはちゃんと来るし、自分はいつも夜明けを待っていたんだということに気づけたんですね。今回掲げたタイトルに、自分自身も気づかされたんだと思っています」
――「自分のことを好きになれない自分がいる」とも語っていましたね。
「先日、ファンクラブのイベントである女性が『私は40代だけど、大人になることって全然怖くないし、楽しいことだから怖がらなくていい』と言ってくれたんですね。だけど、今の自分にはそれは実感できなくて...。自分の未熟な部分に納得できないし、大人になることがとても怖い。自分の中の変わらない部分と変わる部分が日々葛藤しているようなことが今もあります。でも、そんな葛藤があるからこそ、色々なことに挑戦したくなる。私はこれまで遠回りもしてきたし、これからも間違いをしながら歩んでいくと思うんだけど、めげることなくやっていきたい。自分は自分のできることをやればいいと考えています。そのためにも音楽は重要なんです。自分を縛り付けているようなものを払拭するためには、何かに没頭することが必要だと思うし、自分に試練を課している面もある。PEDROは誘われたことがきっかけで始まったんですけど、今では大好きで自分で選んでやっていることなので、今の私は音楽に、そしてPEDROに極力自分を落とし込んでいきたいと思っています」
――ライブ前に、「今までの私、これからの私の生きざまを全部見せたい」と言っていましたが、見せられましたか?
「少なくとも、あの日に至る自分の生きざまは全部見せられたと思います。あの日、終わって家に帰ってから、本番の映像を見ながらひとり反省会をしていて、気づいたら朝の8時だったんですけど...。冷静に振り返ると、ちょっと緊張してたなとか、もっとできることあったなとかも思うんですが、あの日あそこに立つまでの自分を全て見せられたという点では、悔いはありません。本当は、自分の声を聴くとか映像を見るのも嫌なんですけど、そんなこと言っていたらごまかしで終わっちゃうから、自分ととことん向き合って、いい方向に行きたいですからね」

――ライブ前とライブ後で、自分自身に変化は?
「ライブだけに限らず、ライブに向かう日々の中で多くの人にいただいた言葉とか、挑戦しながら自分で気づいたこととか、全てが糧になった。私は不器用なので、全力疾走しかできないと思っていたんですが、実はそこに逃げていただけなのかなと。自分の不器用さを口実に、がんじがらめにして『できない』と決めつけていたんですよね。なので、今は肩の荷を下ろして、さらに音楽と向き合って、新たな一歩を踏み出せる気がしています。野音の前は人と会って遊ぶようなことは全然なかったけど、今は人と会って音楽とか色々な話をしたり、たくさんのことを柔軟に取り入れたい。全力疾走は変わらずに、器用にやっていこうと思う。やっぱり野音以降で、そう変われたんですよね」

心を閉ざすことをやめ、自分を鼓舞してコミュニケーションを図った
――今回のMTVの放送では、ライブに加えてドキュメンタリー映像も放送されますね。
「これまで、コミュケーションを避けてきた面もあって、そのことで自分を嫌いになってしまう要因になっていたと気づいたんです。意見を言っても聞いてもらえないかなとか、勝手に思ったりして...。だから今回は少し勇気を出して、自分の意思をチームの人に話して共有しようと。すると思った以上に皆が真剣に耳を傾けてくれた。それが自分にとって大きな希望になりました。今回の野音ではPEDROの歴史を振り返るようなセトリにしようと提案してもらって、準備していた新曲もこの日に初披露して特別な日にしようと。とにかく、どんなライブにしたいかとか、この曲にはどんな意図が込められているかなど、くまなく共有しました。そういうライブに向かっていく様子も含めて、ドキュメンタリー映像には収められていると思います」
――田渕ひさ子さんやゆーまおさんなど、メンバーとのコミュニケーションで印象に残っていることは?
「ツアーを回っている時に、ゆーまおさんから『一緒に曲を作ろうよ』と言ってもらえて、今回の新譜の最後にも入れています。ひさ子さんも、女性としても音楽人としても、その生き方を尊敬している方。2人には今自分が抱いている悩みもよく相談していますね。そんな時は本当に向き合ってくれて、ご自分の体験も交えて話してくれます。以前だと私が一方的に心を閉ざしていたので、そんなコミュニケーションは生まれなかったんですね。学生の頃から憧れていた人たちだから、悩み相談なんて恐れ多くてできなかった。だけど、そんな風に勝手に卑下して一歩下がっていたら、同じ舞台に立つメンバーとしてダメだとも思ったし。さっき言ったように自分を鼓舞して、今回はコミュニケーションを取りましたね」
――新作アルバムは、原点回帰がテーマだということですね。
「ツアーを1本終えて、次のツアーまで新譜制作に精を出そうと、今年の頭から動き始めました。最初は曲作りがうまくいかずに、自分らしくない言葉を使ってしまったり、不完全燃焼なところがあったんですね。案の定、全部ボツになって...。そこで、なぜ私の思考回路がこういう状態なのか、レーベルの人と話し合う中で、自分が全力疾走し過ぎて見て見ぬふりをしていた部分とか、自分を毛嫌いしてしまう一面などが続々と露わになった。だから、すべてに目を背けることなく、どんな未来にしたいかをしっかり考える時間を作ってもらいました。その時に、16歳で初めて自分が書いた『本当本気』という曲の歌詞を読み返して、当時の自分が抱えていたコンプレックス、意地や情熱。それが今もまったく変わっていないと気づいたんです。ならば、年齢を重ねた今の自分の自己紹介ソングを作ってみたいと思って...。それで6曲が出来上がった時、自分では意図してなかったけど、"原点回帰"がテーマになっていると感じました。新譜制作にあたって自分自身と向き合った時に、これまで血迷った時にも無我夢中でいろいろなことをやってきたし、必死に音楽に取り組んできた。それは自分にとって絶対に間違いじゃない。人から『昔のアユニのほうがよかった』とか言われることもある。でも、『多くのことを経験し、たくさんの気づきを得た今のほうが、きっともっといいんだよ。なめんなよ!』という気持ちが自然と沸き上がった。そんな思いで、"原点回帰"というテーマを掲げました」

――10月の全国ツアーに向けて意気込みを
「私の場合、今悩んでいることやもがいていることが、ライブというものに如実に表れる。今の自分を目いっぱい落とし込んでツアーを回るから、私自身の生きざまを全国でライブ会場で見せます。ただ、3日経つと考えがまったく変わるというほど、流動的で好奇心旺盛な人間でもある。変わることの面白さ、変わらないことの逞しさ。それもひっくるめて、会場に来てくれた人に伝わったら嬉しいです。もともと私はありのままの自分を人に伝えることが苦手な人間なのですが、音楽活動を通じて人と出会っていく中で、ありのままの自分をそのまま見せることが、本当は簡単なことで、とても素敵なことだって気づけた。今は誤解のないように、嘘をつかずに自分をライブで表現するやり方を覚えている最中なので、10年後くらいには、『ライブは私にとってセラピーです』とか、言えるようなカッコいいバンドマンになれたらいいと思う。そのために今覚えたやり方を今後も続けていきたいですね。今は"好き"と"楽しい"だけでライブをやっているけど、実際にあんなに最高な空間、最高の時間はほかにないから。やっぱり音楽とライブがなければ生きていけないです!」
――最後に今回放送される特別番組に向けてのメッセージをお願いします。
「今回の野音ライブは、命がけと言ったら大げさですけど、チーム一丸で本当にいいものを作ろうと全力で歩んだ日々でした。そんな姿を映像作品として残してもらえたのはすごく嬉しいですし、皆さんに見てもらえることは当たり前のことではない。きっと何か受け取ってもらえるものが必ずあると思うし、ありのままの私を見てほしいです!」
文=渡辺敏樹 撮影=中川容邦
放送情報
PEDRO 日比谷野外大音楽堂 Live & Document「ちっぽけな夜明け」
放送日時:2025年10月17日(金)21:00~
チャンネル:MTV
MTV LIVE: BiSH Less Than SEX TOUR FiNAL '帝王切開'
放送日時:2025年10月17日(金)20:00~
チャンネル:MTV
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