"恋愛ドラマの神様"北川悦吏子が紡いだ平成の名作 妻夫木聡&柴咲コウの繊細で巧みな演技力が光る「オレンジデイズ」
2025.10.4(土)

脚本家・北川悦吏子は、「ロングバケーション」(1996年)や「ビューティフルライフ」(2000年)で知られ、ラブストーリーの旗手として名を馳せている。彼女の代表作のひとつで、2004年にTBS日曜劇場で放送されたのが、「オレンジデイズ」だ。
本作は、妻夫木聡と柴咲コウが主演したラブストーリーで、大学を舞台にした青春群像劇でもある。就活に悩む大学4年生・結城櫂(妻夫木)と、天才的な音楽の才能を持ちながら聴覚を失った萩尾沙絵(柴咲)の恋愛を、友人たちとの交流を交えながら、彼らの青春を繊細なタッチで描いた作品だ。
主な登場人物は、大学の同級生・相田翔平(成宮寛貴)、小沢茜(白石美帆)、矢嶋啓太(瑛太)。櫂の恋人で大学院生の高木真帆(小西真奈美)、翔平の妹・あゆみ(上野樹里)。ほかに山田優、小日向文世、風吹ジュン、柏原崇、沢村一樹、永井大らが共演している。主人公の耳が聞こえない恋愛ドラマという共通点で、2022年にドラマ「silent」(目黒蓮&川口春奈主演)が大ヒットした際に、本作が再評価されて話題になったことがある。
■大学4年生の主人公たちが直面する恋や人生への葛藤を鮮やかに描く

手話が劇中の大きなファクターとなるが、櫂は社会福祉心理学専攻のため手話は習得済み。沙絵は美しい顔に似合わず、下品な手話で毒を吐く。白石美帆、風吹ジュン、小西真奈美も手話を操る設定のため、妻夫木・柴咲をはじめとする5人はクランクイン前に手話の猛特訓を重ねて撮影に臨んだ。柴咲はバイオリン、沙絵の母親を演じる風吹はピアノのレッスンも受けて劇中で披露している。
明青学院大学4年生の櫂(妻夫木聡)は就職先が決まらず、落ち着かない毎日を送っていた。ある日櫂は、学内で沙絵(柴咲コウ)が弾くバイオリンを耳にする。思わず拍手した櫂だったが沙絵に冷たくあしらわれてしまった。数日後、櫂の親友の啓太(瑛太) が恋に落ちたと告白する。じつはその相手は沙絵だったのだが、気弱な啓太のために、プレイボーイの翔平(成宮寛貴)が代わりにデートの約束を取り付ける。啓太は相手の耳が不自由と知って動揺してしまう。そこで手話ができる櫂に無理やり代役を押しつける。何も知らずに待ち合わせ場所で待つ櫂の前に沙絵が現れ、2人は思わぬ再会を果たした...。
その後は、一癖ある沙絵の性格に戸惑いながらも、次第に惹かれていく櫂の揺れ動く心情や音楽の夢を諦めきれずに悩む沙絵の悲哀、茜に惹かれるがいつも空回りしてしまう啓太。複数の女性を弄ぶプレイボーイ翔平が、じつは妹想いで質素な暮らしをしている...。そんな彼らが抱える人生や恋愛の悩みや喜び、そして不可抗力に翻弄される青春時代がリアルに描かれ、視聴者の共感を呼んだ。
耳が不自由になった沙絵は、明るく振舞っているが、厳しい試練にたびたび遭遇する。有名な音楽サークルに誘われて仲間に入るも、耳が不自由な彼女が奏でる音はわずかなズレが生じてしまい、断念させられる。傷ついた沙絵が現状を憂い、感情を爆発させる場面は見ていて切ない。だが、そんな彼女を支えたいと決心する櫂の決意が、やがて恋愛に昇華していく。

恋人の真帆は、沙絵に寄せる櫂の想いに気づき、ゼミの同級生で会社員になった佐野(柏原崇)と浮気してしまう。翔平は、派手に遊びながらも将来に不安を抱え、カメラマンの助手になるが「あいつは才能がない」と影口を叩かれて傷つく。実家が結婚式場という啓太は、家業を継がずに東京で就職しようとするが、父親が病気で倒れてしまう...。
登場人物たちは、それぞれ「自分の力ではどうにもならないこと」に直面して恋や人生に悩む。そんな深みのあるストーリーは単なる恋愛ドラマに終わらず、社会に巣立つ直前の大学4年の複雑な心情を鋭く描き出している。魅力的な若手俳優を配し、キラキラした青春ドラマという一面もあるが、じつは20代前半の若者特有の不安や葛藤を浮き彫りにする。「オレンジの会」と称する彼ら5人は、恋愛に対しては助け合うが就職に関しては、そうはいかない。就職競争に打ち勝つには、個人で挑むしかないからだ。それもリアルな現実である。青春時代は輝きばかりではない。青春の光と影をクールに描いたドラマである点も視聴者の心を打った。
また、当時人気絶頂だったMr.Childrenの楽曲がドラマの随所で流れ、特に最終話のクライマックスで「Sign」が流れる演出は感涙もの。詳細はあえて省くが、名場面なのでぜひ見てほしい。
■若き妻夫木と柴咲の繊細で巧みな演技力に感嘆!

聴覚障害というテーマを「不可抗力」の一つとして描いた点が秀逸で、コミュニケーションの壁をさりげなく描いた点も見事。近くにいれば手話が使えるが、遠くにいる相手を呼び止めることは非常に難しい。本作でも櫂が通りの反対側にいる沙絵を呼び止めようと、携帯電話を投げる場面がある。じつはここは後に重要な伏線となるのだが、聴覚障害を単純な泣きの要素にしていない点に好感が持てる。
さらに、何よりも若手時代の妻夫木聡と柴咲コウの演技が素晴らしい。妻夫木の感情表現が丁寧かつ細やかで、櫂の心情が痛いほど伝わってくる。セリフ回しも自然だし、声もいい。近年でも映画「ある男」で、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。NHKの朝ドラ「あんぱん」や映画「宝島」でもその演技を絶賛されているが、この頃から非凡な俳優であったことがわかる。
柴咲も難しい役どころを好演。手話で悪態をつく場面やセリフなしでも心情がしっかり伝わる、巧みな表現力は見事というほかない。数ある彼女の出演作の中でも、本作の沙絵役をベストワンに挙げる人も多いが、まさに彼女でしか成立しないと思えるほどのはまり役だ。成宮寛貴、瑛太、白石美帆といった俳優陣も健闘し、後の成長を予感させている。ちなみに、当時は無名だった田中圭が第8話に同級生役で出演しているのもレアポイントだ。
平均視聴率17.40%を記録したヒットドラマ「オレンジデイズ」は、「涙が止まらない」と多くの視聴者を感動させた紛れもない名作だ。当時の若者はもちろん、彼らの親世代も虜にした。平成の若者たちのリアルな葛藤や人間模様を描いた本作が、TBSチャンネル2で放送される。果たして令和の若者の目にはどう映るだろうか。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
オレンジデイズ
放送日時:2025年10月30日(木)・31日(金)18:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
出演:妻夫木聡、柴咲コウ、成宮寛貴、白石美帆、瑛太、小西真奈美、山田優、上野樹里、岡あゆみ、佐藤江梨子、沢村一樹、小日向文世、風吹ジュン ほか
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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