渡哲也×桃井かおりが夫婦役に!昭和ドラマの力強さを感じさせ、時代劇の常識も破る名作ドラマ「浮浪雲」
2025.9.25(木)

ジョージ秋山の原作漫画をドラマ化し、1978年にテレビ朝日系で放送された「浮浪雲」。石原プロモーションが製作し、主人公の雲を渡哲也が演じた。脚本は「北の国から」の倉本聰が担当している。
幕末を舞台として、坂本龍馬や勝海舟、新選組など史実で有名な人物も登場するが、基本的には雲とその妻・かめ(桃井かおり)、息子・新之助(伊藤洋一)を中心にしたホームドラマである。ただ、ドラマ冒頭に「このドラマはフィクションであり、時代考証その他、かなり大巾にでたらめです。」という注釈がある通り、時代劇としてハチャメチャな場面も多い。
例えば、アコーティックギターを弾き語る場面があったり、「PTA」や「マスコミ」という現代用語が普通に飛び交ったり、登場人物が昭和のヒット曲を口ずさむなど、本当にデタラメなのだが、そんな演出もドラマの個性として楽しめる。
■動乱の幕末を舞台に親子の在り方を視聴者に問いかける

(C)石原音楽出版社
製作者としてクレジットされている石原裕次郎のヒット曲「夜霧よ今夜も有難う」を渡が鼻歌で口ずさみ、自身の代表曲である「くちなしの花」を歌う場面もあって、思わずニヤリ。桃井にいたっては、当時大流行したピンク・レディーの「ウォンテッド」を歌うというハチャメチャぶり。宴会のシーンに放送当時の流行歌「演歌チャンチャカチャン」を全員が大合唱する場面が何度も挿入されて時代を感じさせる。
コミカルな場面が多いのは確かだが、本作の核となっているのは、やはり人間ドラマの旗手である倉本が紡ぐストーリーの妙。特に思春期の子を持つ親世代の人には参考になることも多いはずだ。
主人公の雲は、江戸・品川宿の問屋「夢屋」の主。しかし仕事はそっちのけで、無類の酒好き女好き。昼行燈で髷もきちんと結わずに女物の着物を着て、いわゆる遊び人の風体。見かけに違わず遊んでばかりいるので、息子の新之助にも説教されている。世の中の風習や常識には一切囚われず、常に飄々としているが、柔軟な思考と強靭な精神力を持ち、じつは剣術の達人でもある。人間的な魅力に溢れる人物なので、老若男女を問わず、人を惹きつける所以だ。桃井かおり演じる妻のかめも、文句ばかり言いながらも夫を深く愛しているし、息子の新之助も父を敬愛していることがわかる。
■新境地を開拓した渡と魅力を炸裂させる桃井のコンビが絶品

(C)石原音楽出版社
そんな魅力的な主人公を演じる、渡の演技が素晴らしい。欠点だらけの曲者だが、魅力に溢れる主人公は珍しくないものの、演じるのは簡単ではないはずだ。バランス感覚に優れた芝居が要求されるし、内側から人間性が溢れるような深みのある演技でなければ、説得力に欠けてしまう。
渡といえば、「大都会」や「西部警察」でのクールなタフガイのイメージが強いが、本作で見せた飄々として人間臭い主人公像は、まさに俳優・渡哲也の新境地を開拓するものだったと言える。ちなみに、本作でも共演し、渡をよく知る柴哲夫によれば、雲の人物像は「普段の渡のイメージに近い」そうだ。
相手役を務めた桃井も見事な演技を披露。桃井は1975年に倉本聰脚本のドラマ「前略おふくろ様」の出演で人気を博し、本作の前年に公開された映画「幸福の黄色いハンカチ」でも演技力を絶賛されて女優として花開いていた時期。
本作でのかめ役は、夫や子供への愛情に溢れ、懸命に家庭を守る女性でありつつ、芯が強くて非常に可愛らしく、女性としての魅力も全開。独特なセリフ回しと細やかな感情表現、豊かな表情の変化など、まさに桃井にしかできないという個性的な表現を駆使して魅了する。
渡と桃井のコンビが醸す独特な空気感こそ本作のキモであり、ドラマの魅力を倍増させたと言える。また、伊藤洋一が演じる11歳の息子・新之助の存在も大きく、彼の芝居も抜群だ。両親を慕う気持ちと反抗期の子供によくある葛藤を素直に演じ、新之助が視聴者の涙を誘う場面も非常に多い。
■芸達者な共演陣に豪華なゲスト。昭和の名優が勢ぞろい
その他の共演陣も粒ぞろいで、特に夢屋の番頭・欲次郎を演じる谷啓の存在感が抜群。仕事をしない雲に変わって、店を切り盛りしつつ、雲を説教することもある。小気味いいセリフ回しとテンポの良さ、丁寧な視線の動きなど細やかな演技が見事だ。
ベテランの笠智衆は、博学多才な老人・渋沢先生を演じている。人生の深みを良く知り、雲や新之助のよき相談相手。過去の女性との逸話を語りたがるなど、茶目っ気もあって楽しい。新之助が通う塾の青田先生を演じる柴俊夫も好演。得意なはずの英語が外国人相手にまったく通じなかったり、惚れた女性に騙されたりするなど悲哀のある役どころだが、コミカルとシリアスを巧みに演じ分け、その演技には大いに好感を持てる。
ゲスト俳優もなかなか豪華で、沖田総司役の三浦洋一のクールさと色気が圧倒的(第1回)だし、坂本竜馬役の山崎努はクセのある土佐弁を駆使して絶品だ(第2回)。ほかにも中村玉緒、小松方正、村野武範、荒井注、加賀まりこ、フランキー堺といった昭和の名優たちがズラリ。ハナ肇、犬塚弘、桜井センリといったクレージーキャッツのメンバーも谷との繋がりで出演している。
第18回には、人斬り以蔵こと岡田以蔵役の川谷拓三と中岡慎太郎役の北村総一郎が登場するが、この2人は特にピカイチだった。川谷は凄みのある刺客と死を恐れる臆病な両面性を巧みに演じ、北村は過剰でコミカルな土佐弁に加えて、裏表のある不気味さを表現。彼らに限らず、昭和にはいい役者が多かったなと、改めて感じさせてくれる。
最終回(第20回)には、石原裕次郎も特別出演し、雲の義理の兄(かめの実兄)という役どころで顔を見せ、自ら「夜霧よ今夜も有難う」の一節も披露する。今見ても楽しさと感動が満載で、涙と笑いが詰まった素晴らしいドラマに仕上がっていると感じられる名作「浮浪雲」。2026年にNHK-BSにて再びドラマ化され、佐々木蔵之介が主演するそうだ。令和の新作も大いに楽しみだが、渡と桃井の見事な演技を中心に、昭和期のドラマの力強さを改めて感じてほしい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
浮浪雲
放送日時:2025年10月15日(水)18:00~
放送チャンネル:ホームドラマチャンネル
出演:渡哲也、桃井かおり、伊藤洋一、柴俊夫、笠智衆、山本麟一、谷啓、石原裕次郎
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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