中山優馬が再び挑む『大誘拐』で感じた"役者としての成長"「毎回の舞台にのめり込めるようになった」
2025.9.19(金)

舞台『大誘拐』が、2024年の初演からわずか1年で早くも再始動が決定。紀州を舞台に、誘拐犯と資産家の老婦人が繰り広げる痛快ドタバタ劇は、白石加代子、柴田理恵、風間杜夫という日本演劇界を代表する名優たちが織りなす豪華競演でも大きな話題を呼んだ。そんな大ベテランに囲まれ、犯人グループのリーダー・戸並健次役を再び演じるのが中山優馬だ。
今回のインタビューでは、早くも実現した再始動への思い、初演の時に肌で感じた作品のパワー、共演者たちの"すごさ"、そして健次という人物へのアプローチまでを語ってもらった。さらに、少人数芝居ならではの緊張感や、ハプニングも楽しむ舞台ならではの醍醐味、長丁場を走り抜けるための体力作りについてもたっぷりと聞いた。

――2024年に初演された舞台『大誘拐』が早くも再始動されることになりました。再始動決定の知らせを受けたときの率直なお気持ちから聞かせてください
「本当にめちゃくちゃ嬉しかったです。初演のときから、『もっとやりたい、もっとこの世界に浸っていたい』という気持ちが強くて。公演期間中も、先輩方と楽屋や食事の席で『これ、再演できたら最高だよね』と話していたくらいなんです。だからこそ、こんなに早く現実になるとは思っていなくて、驚きと同時にワクワクがこみ上げました」
――初演の段階で、作品に対して大きな手応えを感じられていたんですね
「そうですね。自分の芝居に関する手応えというよりも、この作品自体が持つ力を強く感じていました。舞台上で、大ベテランの3人がドタバタ劇を全力で展開し、それにお客さんがどんどん巻き込まれていく。その空気感の変化を、袖から見ていてもはっきりとわかるんです。出演していない場面でも、ずっと舞台袖で見ていたくなる。それくらいパワーのある芝居でした」

――袖からでも見たくなる芝居って、なかなかないですよね。では、大ベテランのみなさんそれぞれに感じたすごさはありますか?
「白石さんは圧倒的な声の力と存在感、そして生き様。一言しゃべるだけで飲み込まれるようなパワーがあります。最初の"大誘拐"の一言で、空気がガラッと変わるんです。柴田さんは強烈なキャラクターを次々と切り替える器用さがあって、それを全部間違いなくこなせる。でもご本人は"私は不器用"っておっしゃるんです。その愚直さで稽古を重ねる姿勢に感服しました。演劇好きで探求心旺盛なところは、まるで少女のようで、風間さんを質問攻めにしている姿を見て、とても刺激を受けました。風間さんは、何を考えているのかわからない自由さが魅力。真面目な役をやっていても笑いが生まれる瞬間があって、それが計算なのか素なのかわからない。セリフも毎回違うのに、芝居として成立してしまうのがすごいです。その場の空気や感情を優先して言葉を紡ぐスリリングさは、本当に真似できません」
――演じる戸並健次は、犯人グループのリーダーでありながら憎めないキャラクターです。中山さんはどんな人物像として捉えていますか?
「すごく人間らしくて、愛情深い人ですね。もちろんダメなところもあって、お金持ちからお金を奪うという選択をしてしまうんですが、それもどこか素直で、悪意だけではない。最初は1,000万円を要求するつもりだったのが、おばあちゃんとのやり取りを通じて情が移り、最終的には100億円というとんでもない計画に変わっていく。その過程が彼の魅力だと思います」
――演じる上で、健次に共感できる部分はありますか?
「周囲の意見を素直に受け入れて行動するところですね。おばあちゃんの意見を取り入れながら物事を進めていく。その姿勢は、役者の仕事にも通じます。自分一人では成立しない世界だからこそ、スタッフや共演者の存在が不可欠。その感覚はすごく理解できますし、演じていても感情移入しやすい部分です」

――今回は4人芝居という少人数編成です。やっぱり独特の緊張感がありますか?
「ありますね。4人しかいないから、誰かが崩れると全体が崩れる。その綱渡り感が面白いです。大先輩3人の中に自分も重要なピースとしていることが嬉しい。たすき一つで役が変わるようなシンプルな演出も、ベテランの力量で成立してしまう。人間の力で芝居が成立している感覚があります」
――初演時に、ドタバタ劇ならではの「大変だった」と感じたエピソードや印象的な出来事はありますか?
「風間さんは本当に大変そうでしたね。袖に引っ込んで着替えて、また出てくるまでの時間が本当にギリギリだったりして。僕の子分役も風間さんがやってくださっているんですが、子分は二人いるので、僕が『はい、何?』と声をかけたら、風間さんが別の役からバーッと走ってきて、『はいはい』と応える、という(笑)。普通逆じゃない?っていう構図なんですけど、それも演劇の楽しさだと思います。ドタバタ劇は一人二役なんて当たり前なので、テンポよく進められないといけないんですが、それを楽しめるのも風間さんの力だと思います。
――ハプニングはありましたか?
「ハプニングといえば、椅子ですね。この椅子は車にもなったり、テーブルになったりと抽象的な使い方をするんですが、そのプリセットが最初から違っていたことがあって。僕が椅子を持ってバーッと登場する場面があるんですが、1回、その椅子が置いてなくて、『あれ、椅子がない』となって。そのまま出て行って、舞台上にあった別の椅子を使って、いつもとはちょっと違うドタバタ感になったこともありました(笑)。そういうハプニングも含めて楽しかったですね」

――舞台の魅力って、そういう生の出来事も含めて観客と共有できるところにありますよね
「そう思います。やっぱり"助け合い"という精神がないとできないと思うんです。そのチーム感ですね。舞台はノンストップで止まれないので、失敗した部分はすぐに捨てていく作業になります。セリフを噛んだら捨てる、動きを間違えたらそれも捨てる。次の二次災害は起こさないようにする。自分が何か"事故"を起こしても、その場に残るわけですが、次に出てくる誰かが必ず助けてくれるんですよ。そういう綱渡り感が舞台の楽しさですし、感情が切れることなく最後まで走りきれるのかなと。なので、その一瞬一瞬に集中していると、終わった後に『今日はこういう感情でフィニッシュしたな』と感じられるんです。日ごとに違う感覚になるのも、その回だけの作品だと思える理由ですね」
――そうした舞台経験は、映像やほかの仕事にも影響しますか?
「良いことも悪いこともあります。悪い面は、映像向きじゃない芝居になってしまうこと。久々に映像の現場に行くと、『あれ?みんなもっと小さい芝居なんだ』と気づくことがあって。自分のサイズが大きすぎることに、無意識のうちになってしまっているんです。良い面は、自力がつくこと。舞台はずっとフルショットで戦っているので、体の使い方や集中力が鍛えられます。映像の場合、顔が撮られているときは顔だけに集中してもいいですが、舞台は全身と神経を常に使わないといけない。そういう意味では役に立っていると思いますね」
――昨年に続き、今年も長丁場のスケジュールで駆け抜けていくと思います。そういった期間は、やはり体調管理も意識されるのでしょうか?
「基本は"よく食べて、よく寝る"ことですね(笑)。細かいことを言えば、ホテルでは必ず加湿をしますし、声のウォームアップと体のウォームアップは欠かしません。でも、やっぱり一番強いのは、しっかり食べて、しっかり寝ることだと思います」

――スケジュール的にも身体的な負担があると思いますが、精神的に大変な部分もありますか?
「今回の作品では少ないほうだと思いますけど、それでも移動は想像以上に疲れます。新幹線で行ける場所ならまだいいですが、そうでない場合は乗り継ぎやバス移動もあったりしますし、初めてのホテルのベッドで寝て、翌日に本番を迎える緊張感も加わる。それと戦っていくのは、なかなか体力のいることです。だからこそ、本当に白石さんは"化け物"だなと思います。全国を回れる体力と、それをやり遂げようとする気力や気迫は、とてつもないです。うちの祖母は白石さんより年下ですが、僕の舞台を観に来るのも"体力がないから"と断念するくらいで。2時間座っているだけでも腰が大変になるのが普通だと思うんですけど、それを演じる側としてこなしているんですから、考えられないです」
――中山さんご自身も、これまで連日の舞台出演を経験されてきました。最初の頃と比べて、体力や精神面で鍛えられたと感じることはありますか?
「ありますね。芝居にのめり込んで楽しくなればなるほど、知識も増えますが、それに比例して苦労も増えてきて。昔は知識がなかったので、人に言われたことをただやるだけで、同じことを20回、30回繰り返す"再現性"を持つことが最初の段階でした。その頃は正直、舞台を面白いとはあまり思えなかったですね。でも、飽きていても飽きていなくても、稽古してきたことだから言い方を変えない、という感覚でやっていました。でも役者の仕事ってそういうことじゃないな、と経験の中で気づきました。本当に感情を込めて、いろんな作業を通してその感情を高い水準で守り続けることが"再現度"なんだ、と。"覚えたセリフをただ言う"ということじゃないんだと気づいてからは、1回1回にのめり込めるようになりました。その意味で、舞台を生き抜く体力は確実についてきたと思います」
――最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします
「僕自身、みなさん以上に楽しみにしています(笑)。この4人のパワーを間近で感じて、"生きているってこんなにきらめくんだ"と思える舞台。ジェットコースターのようなスピード感で、お客さんと一緒に空気を作る一体感があります。年齢を問わず、誰もが楽しめる作品なので、ぜひ劇場で体感してほしいです」
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
衣装=ジャケット(¥143,000)、パンツ(¥63,800)ともにNEW ORDER(SianPR)
靴(¥29,700)/Dr.Martens (Dr.Martens AirWair Japan)
その他スタイリスト私物 ※すべて税込価格
公演情報
『大誘拐』~四人で大スペクタクル~
原作:『大誘拐』天藤真(創元推理文庫刊)
上演台本・演出:笹部博司
ステージング:小野寺修二
出演:中山優馬、柴田理恵、風間杜夫、白石加代子
<東京公演>
日時:2025年10月10日(金)~10月13日(月・祝)
場所:シアター1010
他、香川、鳥取、岡山、山形、帯広、札幌、大阪、愛知、石川、秋田、新潟、長野、神奈川公演あり
衣装お問い合わせ番号
・Sian PR(03-6662-5525)
・Dr.Martens AirWair Japan(0120-66-1460)
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