伊藤沙莉、「伸び伸びしている感じは自分ともリンクしている」役柄とは――映画『風のマジム』
2025.9.10(水)

沖縄の地でラム酒づくりに挑戦した女性の実話をもとに、原田マハの小説を映画化した『風のマジム』が、2025年9月12日(金)より全国劇場にて公開される。
豊かな自然と人々の絆を背景に、主人公・伊波まじむが夢に向かって歩み出す姿を描いた物語だ。主人公を演じるのは、数々のドラマや映画で幅広い役を演じてきた伊藤沙莉。祖母役の高畑淳子、母役の富田靖子をはじめ、滝藤賢一や染谷将太ら豪華キャストが脇を固め、沖縄ならではの文化や風景とともに、世代を超えて受け継がれる"真心"を鮮やかに映し出す。
まじむという役を通して見えた"伊藤沙莉らしさ"とは?作品の温かさとともに、彼女の素直な思いを聞いた。
(C)黒木早紀子
――主人公・伊波まじむを伊藤さんにオファーした理由について、芳賀薫監督は「他にいない」とおっしゃっていましたが、ご自身はオファーを受けたときの心境は?
「ここ何作か、『女性初』といった役柄をいただくことが続いていたので、似たような役はどうかなと一瞬よぎったんです。でも、それ以上に作品のテイストがこれまでと違うな、と。1人の人生や家族の人生を多角的に描いていて、とても温かいと感じました。もちろん新たな道を切り拓いていく物語ですが、自分にとっても新鮮な挑戦になると思ったんです」
――主人公・まじむをどんな人物だと捉えましたか?
「あまり欲がない人だなと思いました。まじむはお酒が好きで、お酒に対する純粋な興味と、沖縄ならではのものを作りたいという思いから、沖縄産100%のラム酒の製造にたどり着いたんです。先輩社員の冨美枝さんに『仕事に生きる女だったのね』と言われたときの驚いた表情や答えに、一番まじむらしさが表れていると思います。まじむは出会いや縁にもとても恵まれていて、欲のなさが人を惹きつける。そこに彼女ならではの特別な力があるんじゃないかなと感じました」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
――欲のなさが人に自然と愛される役柄は、明確なビジョンを持って突き進む人よりも演じる上で難しさはありましたか?
「まじむの場合、本音でしか話していないので、言葉の裏の意味などを考えなくていいんですね。(言外に)含んだ意味もなく、耐える力や心の強さは持っていますが、人と戦うことも望んでいないですし、自分のやりたいことを見つめて一生懸命頑張っているだけ。まじむを演じる上では、誰との会話にも含みを持たせなくて良いから、純粋に楽しかったです」
――まじむの"欲のなさ"や"戦わない姿勢"に、ご自身が共感する部分はありますか
「ありますね。私も戦うのは好きじゃないんですよ(笑)。まじむは自分が楽しいと思うことをやっているのであって、競争でもなければ、人と比べることもない。『私だっていつかは』みたいな野心もないですし、あくまでマイペース。そういった点もちょっと似ているかもしれないです」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
――高畑淳子さん(祖母・カマル役)、富田靖子さん(母・サヨ子役)との共演はいかがでしたか?
「お2人とは朝ご飯や夜ご飯を一緒に食べて、普通に実家にいるような気持ちにさせていただきました。一緒に食卓を囲むことにまったく違和感がなく、家族と思える空気を出してくださる方々だったので、やりやすかったです。大先輩ですし、本当に素敵な役者さん達ですが、そういったことを忘れちゃう"おばあ"と"お母さん"なんですね。自分がそこに生きるということがスムーズにできたのはお2人のおかげだと思います」
――滝藤賢一さんが沖縄の醸造家・瀬那覇仁裕を演じています。伊藤さんと滝藤さんのコンビは、朝ドラ『虎に翼』(2024年)での家庭裁判所の師弟関係を思い出します
「滝藤さんは強いですよね。本当にお酒を作っていそうじゃないですか。職人にしか見えないですよね?(笑)この作品をやっているとき、夫に『滝藤さんが出るんだよ』と話したら、『醸造の人?』とすぐ当てられて(笑)。『プロフェッショナルの役をやったらぴったりだと思う』と言うんです。実際に対面していても『真心』とか言わせたら、それだけで説得力があって。私は滝藤さんと目が合うと、だいたい泣きそうになるんですけど、常にまっすぐこっちを見る目に、内側で燃えている何かを湛えていて、目で語るのが凄い方。短い期間で1人の人間の成長を描くのは、どうしても点描的になりがちですが、滝藤さんや他の共演者の方々と『今どんな状態だったっけ』みたいなことを共有しながら作れたのはありがたかったですし、楽しかったですね」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
――モデルとなった金城祐子さん、そして原作者の原田マハさんと現場でお会いしたときの印象はいかがでしたか
「実在する方を演じるのは、緊張するんです。モノマネするわけではないので、そこは気にせず、台本から感じたものを観る方に伝わればと思って演じていましたが、お二人は応援してくださっていて、それが力になりました。金城さんはご自身と少し似ているとおっしゃっていましたね。もちろん顔とかじゃないですが、まじむが(後輩の妻)志保ちゃんの家にいるときの撮影を見に来てくださっていて、泣いちゃっていたんですよね。ご自身のいろんな歴史を思い出されたんだと思います」
――まじむはある意味"無謀なチャレンジ"に挑んでいますが、その推進力はどこから来ると考えますか
「私は結局、"欲がない人"って強いなと思うんです。あるべきプライドと必要のないプライド、両方を持っている人もいれば、どちらかしか持っていない人、どちらも持っていない人もいる。まじむの場合は、もともとプライドはなかったけれど、プロジェクトを進めていく中で譲れないものが生まれて、プライドが育っていった人だと思うんです。だからこそ、それ以外の欲がない。夢中だから『これでのし上がろう』といった私欲はなくて、それが人の心に純粋に刺さる言葉につながっているんだと思います」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
――まじむのように、伊藤さんご自身が夢中になっていることはありますか?
「私が夢中になるのは、やっぱりお芝居です。好きですし、やっていてすごく楽しいなと思います。あとは話すことも好きで、人と会話するのも好き。その延長でラジオのお仕事につながったりもしています。アウトプットするのが意外と好きなのかもしれないですね」
――役柄を"演じる"というよりも、その役になりきっていくのはどんな瞬間ですか?
「お芝居中に人と関わっているときですね。お芝居って、自発的にやっているように思われがちですが、実は人からスイッチを押してもらうことの方が多いんです。与え合いながら空気感が生まれていくものだと思っているので、自分が作っていくというよりは、ふわ~っと連れていかれる感覚がすごくあります」
ページング

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
――まじむを演じる上で、特に"食べる・飲むシーン"はどのように意識していましたか
「特に食べるときは、人が一番油断している瞬間だと思います。伊藤のままでいちゃってる部分もきっとあると思うし、美味しい顔もそんなに何十パターンもあるわけじゃないので、自然と伊藤のエッセンスは入っていると思います。でも、その集合地点がちゃんと出ればいいなと思っていました。実際に私自身も大東寿司を食べたときに『こんなのあるんだ』『おいしい』と感じましたし、まじむも同じように知らない世界や味に出会っていく。その驚きや喜びは、人はそんなに違わないんじゃないかなと思います」
――実際にラムは飲まれましたか?
「飲みました。まず打ち合わせのときに、制作会社のコギトワークスでアグリコールラムなどいろんな種類をずらっと並べてもらって、本当に"ゴローさん"がやっていたみたいな感じで飲み比べさせてもらったんです。撮影では水になっちゃうので、その前に本物を体験させてもらえてよかったですね。その後は高畑さんと一緒に『こっちの方が甘いね』なんて言いながら飲み比べたり、ラムしか出していないお店にも連れて行っていただきました。そこはラム協会の方がやっているお店で、種類や歴史を教えていただきながら、ラムそのものはもちろん、カクテルもいろいろ楽しませてもらって。まさに"ラムのワンナイト"を過ごした感じで、すごく楽しかったですし、美味しいラムに目覚めましたね。ラムってさっぱりしていて、ほのかに甘みもあるので、そのまま飲んでも意外とクイッといけちゃうんです。私はグラッパも好きなんですけど、ラムはそれよりも優しさがある感じ。だからこそ、まじむが初めてラムを口にしたときのシーンの参考にもなりました。強さはあるけど喉にグッと来ない、そんな味わいが印象的でしたね」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
――主人公・まじむと伊藤さん自身に近い部分があったからこそ、実現できたこともあったのではないでしょうか
「そうですね、それはすごくあったと思います。あまり取り繕わないというか、伸び伸びしている感じは、自分ともリンクしていたので、やりやすかったですね」
――映画の中でまじむは、人をどんどん巻き込んで夢を追いかけていきます。伊藤さんご自身にも、そうした経験はありますか?
「きっと何かをやるというのは、私に限らず、みんな巻き込まれたり巻き込んだりしながら進んでいくものだと思っています。例えばオーディションを受けて合格するのも、巻き込まれていっていることの一つなんだと思うし、私のために何か動きたいと思ってくれた人がいたとしたら、どこかで無意識に巻き込んでいるんだと思います。あとは、"NONBEE"というブランドをやっている櫻井孝男さんとのグッズ展開では、色や形について意見を言ったりして、それが形になって『嬉しい』と見せてくれるんです。最初は私が巻き込まれているんですけど、そこから派生して『こういう服作ってみない?』と声をかけてもらい、特に私のブランドとして立ち上げているわけではなく、一緒にデザインを考えたりすることもあります。意外と自分から風を起こしていることも、たまにはあるかもしれないですね」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社
――ご自身が大切にしている言葉を教えてください
「『勝って兜の緒を締めよ』という言葉を私のマネージャー がよく言ってくれます。最初は自分が勝った経験があるみたいで生意気だなと思っていましたが、今ではすごく大事な心得だと感じています。何か成功体験があっても、そこにしがみつかず、ますます気を引き締めていかなきゃいけないという教えです。これは自分がブレないために、とても必要な考え方だと思っています。あとは、お母さんの言葉や考え方も自分の軸になっています」
――今回の映画のテーマのひとつが"真心"だと思いますが、最近その"真心"(=偽りや飾りのない真実の心)を感じた出来事はありますか?
「姪っ子の成長を見たときに、すごくキュンとしました。彼女は2歳なんですけど、以前は分け合うことがとても苦手な子で。でも最近、久々に会ったときにポテトチップスお菓子を食べていて、『ちょうだい』と言ったら、紙皿を出してきて、何個も入れて『はい、どうぞ』って渡してくれたんです。保育園でいろいろ学んで帰ってきて、きっと分け与えることが楽しくなってきたんだと思います。彼女の中に芽生えた優しさの成長がすごくほっこりして、ちょっと泣きそうになりました」

(C)黒木早紀子
――映画づくりとお酒づくりには、ものづくりとしての共通点があるように思います。実際に演じてみて、どう感じましたか?
「自分たちがこだわりたいことや追求したい部分、人に届けたい思いに対して、どう真摯に向き合うかという点は共通していると思います。劇中でおばあが『人の口に入るもの』と教える場面がありますが、それは映画にも通じるものだと感じました。特に私たちの仕事はチーム戦で、誰かが欠けても成り立たない。こだわろうと思えばどこまでもこだわれるし、逆にどこで抑えるかを考えながら、自分たちが納得できるクオリティーに持っていく。そうした過程が、ものづくりそのものとつながっていると感じました」
――最後に、映画を楽しみにしている方へメッセージをお願いします
「温かい心でこの映画を見てもらえたらと思います。今の世の中は少し殺伐としていますが、この作品には温かさがあります。清らかな気持ちで人を応援したり、人の意見やアドバイスをピュアに受け取って、スポンジのように吸収して、またそれを返していく――そんなまじむの魅力を感じてほしいです。映像的にも美しい沖縄の風景や美味しそうな料理が出てくるので、目や耳、そして心で楽しんでいただけたら嬉しいです」
文=HOMINIS編集部
作品情報
「風のマジム」
2025年9月12日(金)より全国公開
出演:伊藤沙莉/染谷将太/尚玄/シシド・カフカ/橋本一郎/小野寺ずる/眞島秀和/肥後克広/滝藤賢一/富田靖子/高畑淳子
原作:「風のマジム」原田マハ(講談社文庫)
脚本:黒川麻衣 監督:芳賀薫
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