宮沢りえが複雑な心情が幾重にも織り重なった演技を見せる映画「父と暮せば」
2025.8.7(木)

1987年に出演したCMで注目を浴び、以降、タレント、俳優、歌手とジャンルを超えて活躍している宮沢りえ。俳優としては、デビュー作の映画「ぼくらの七日間戦争」(1988年)で第12回日本アカデミー賞新人俳優賞の受賞を皮切りに、映画「華の愛~遊園驚夢~」(2002年)で第23回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞、映画「たそがれ清兵衛」(2002年)で第26回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、映画「紙の月」(2014年)で第38回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など、数々の賞を受賞している実力派。そんな宮沢が、第28回山路ふみこ映画賞女優賞、第78回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞、第47回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞した作品が映画「父と暮せば」(2004年)だ。
同作品は、井上ひさしの同名戯曲を黒木和雄監督が宮沢と原田芳雄のダブル主演で映画化したもので、原爆投下から3年後の広島を舞台に、生き残った負い目を抱える娘と、彼女の前に幽霊となって現れた父の交流を描いた人間ドラマ。
昭和23年、広島。3年前の原爆で父・竹造(原田)を亡くした美津江(宮沢)は、自分だけが生き残ったことに負い目を感じながら生きていた。勤務先の図書館で知り合った青年・木下(浅野忠信)と惹かれ合いながらも、幸せになることへの罪悪感から一歩を踏み出すことができない。そんな美津江の前に幽霊となって姿を現した竹造は、2人の恋を成就させるため、どうにか娘の心を開かせようとする。

(C)2004「父と暮せば」パートナーズ
戯曲が原作ということで、ほとんど美津江と竹造による会話劇で構成されているのだが、「さすが日本のエンタメ史に名を刻む両雄」とうなってしまうほど、宮沢と原田の掛け合いがすばらしい。一人遺した娘の幸せを切に願って、押したり引いたり、あの手この手で背中を押す愛があふれる父親と、それに気付きながらも生き残った負い目から自らの気持ちにうそをついてまでも幸せから遠ざかろうとする娘という、互いに多くのものを抱えながらもそれをストレートに出さないという微妙な関係性を1対1の会話だけで、しかも深層心理までも表現していくというハードワークを完遂している。加えて、それらを全て広島弁でやってのけるというおまけつきだ。
中でも、竹造が幽霊であることが明かされるまでの、2人が醸成するノイズのような違和感が漂う雰囲気づくりが筆舌に尽くしがたい。普通に会話しているし、目線がずれているわけでもない。ただ、どこか引っかかる微細な違和感。それは"竹造が幽霊である"という不思議な事実からくるもので、観る者にとっては事実が明かされるタイミングで腑に落ちるわけだが、その微妙なノイズを普通の会話を交わしながら醸し出しているのだ。どうやって出しているのか分析する術がないのだが、ある種の違和感は何度見ても感じるのだから不思議だ。この"言葉では言い表せない表現"こそが「演技の真髄」なのではないだろうか。
さらに、宮沢は物語が進むにつれて次第に強まっていく木下への思いも描いている。木下とのシーンもところどころに挟まれてはいるのだが、基本的には竹造との会話劇であるため、竹造との会話において口では否定しながらも恋慕の情を強めていっているのだ。一つの演技に織り込まれたさまざまな思いをひも解いていくと、これほどまでに複雑に絡み合った感情をよくここまで細やかに表現できるものだと、あぜんとしてしまう。
太平洋戦争を題材にした作品は数あれど、終戦直後の広島を舞台に、原爆がもたらした数年たっても消えない悲惨さ、生き残った者に刻まれた消えることのないトラウマなどを描いて、多くの作品とは違った角度で戦争の恐ろしさを描いた同作。戦後80年という大きな節目に観るのにふさわしい作品の1つといえるだろう。そんな作品に込められたメッセージに思いを馳せながら、宮沢と原田が演技で作り上げたもの、複雑な心情が幾重にも織り重なった宮沢の芝居にも注目してほしい。
文=原田健
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