美空ひばり&高倉健、若かりし頃の大スター同士が魅せる人間味あふれる演技が盛り沢山な映画「恋愛自由型」
2025.8.5(火)
「柔」「川の流れのように」「真赤な太陽」「リンゴ追分」「愛燦燦」など数々のヒット曲を残した"歌謡界の女王"、美空ひばり。歌手として絶対的な存在である彼女だが、歌だけでなく役者としても名を馳せた"銀幕スター"の1人だ。1955年には江利チエミ、雪村いづみと共に東宝映画「ジャンケン娘」に出演したことがきっかけに「三人娘」として人気を博し、1958年には東映と映画出演の専属契約を結ぶほどで、1950年代後半から1960年代にかけて東映はタイトルに「ひばり」を冠した映画を13本製作し、続々とヒット作を生み出した。
そんな、東映の看板スターだった美空主演の「べらんめえ芸者」シリーズの2作目(1960年)から共演していたことが有名な高倉健だが、実は「娘十八ご意見無用」(1958年)や「恋愛自由型」(1958年)でも共演しており、当時はデビュー3年目というキャリアながら見事に看板スターの相手役を務め上げている。
21歳の看板スターと、26歳のデビュー3年目の新人俳優。この2人が、家柄の影響でなかなかうまくいかない恋路に奮闘する恋人役を演じた作品が映画「恋愛自由型」だ。
(C)東映
登紀(美空)は、姉夫婦が経営する芸者屋から不自由なく大学へ通っていた。ある日、学校へ向かう途中で雑誌記者・名取健一(江原眞二郎)から、彼の親友・仙波隆也(高倉)を気の進まぬ見合いの窮地から救い出すことを頼まれる。面識もなかった隆也の前で打った恋人のふりをした芝居が奏功して見合いはお流れになるが、その見合いの相手は登紀の友人だった――というストーリー。
登紀は器量が良く近所でも人気の女学生で、隆也はひと目で惹かれてしまう。後日、隆也から「母親がしつこいため、再び恋人のふりをしてほしい」と頼まれた登紀は、実業家の跡取り息子である隆也の自宅を訪問。そこで家業の差別を受けてしまうという内容なのだが、美空は社会的に理解されにくい家業への不満や、次第に隆也に惹かれていく乙女心などを瑞々しく好演。若さゆえのいじっぱりでかわいらしい部分や周囲に流されてしまう弱さなど、若い女性の繊細な心の機微を丁寧に描き出している。
■鋭いイメージをもつ高倉健が実業家の息子を愛らしく演じる
(C)東映
一方、寡黙な立ち姿と眼光鋭く雰囲気たっぷりな芝居が印象的な高倉だが、この作品では家族にまつわる悩みを抱えながらも、純粋で真っ直ぐな人となりの実業家の息子を熱演。任侠映画スターのイメージとは全く異なる雰囲気に、「本当に高倉健?」と目をこすってしまうほどだ。跡取り息子という役柄であるため、両親には遠慮がある若者を情感たっぷりに演じている。
中でも、物語の後半に、なかなか素直に気持ちを表せない関係性に変化していくのだが、その微妙な距離感での2人の芝居が絶妙。"昭和の銀幕スター"の観客の要望に応えるようなパワフルな演技や、自分を極限まで押し殺すようなストイックな芝居とは一線を画した、本音と建前の間で揺れる人間味あふれる演技を見せてくれている。
日本の芸能史に燦然と輝く大スター2人の共演に心震わせながら、それぞれがいち役者として役の心情の変化を繊細に描き出した演技にも注目してほしい。
文=原田健
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