大沢たかおの成熟した大人の男性の魅力と柴咲コウの繊細な演技が際立つ。映画「世界の中心で、愛を叫ぶ」

2025.8.1(金)

片山恭一原作のベストセラー小説「世界の中心で、愛をさけぶ」は、2001年に発表されたラブストーリーだ。ゆっくりとしたペースで人気に火がつき、単行本の発行部数は2003年に100万部を、2005年に300万部を突破。2004年5月に公開された映画版が大ヒットを記録し、同年の7月クールにはドラマ版も制作されるなど"セカチュー"は一大ブームを巻き起こした。

行定勲監督による映画版で主演を務めたのは大沢たかおと柴咲コウ。三十代となった朔太郎(大沢)が突然家を飛び出した婚約者の律子(柴咲)を追いかけて、故郷の香川へ向かうことに。婚約者を探しながら、実家や母校の校舎に立ち寄る朔太郎の脳裏に、高校時代の恋人・亜紀との記憶が蘇ってくる、という筋立てだ。現代と過去を行き来しながら、朔太郎と律子、そして高校生だった頃の朔太郎と亜紀の関係を描き出していく構成で、高校時代の朔太郎と亜紀を森山未來と長澤まさみが演じた。2人はともに同作で強い印象を残し、当時17歳の長澤は日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を史上最年少で受賞している。

朔太郎役の大沢は、モデルから俳優に転向後、1990年代からドラマでは「君といた夏」「若者のすべて」(ともにフジテレビ系)や「星の金貨」(日本テレビ系)、映画では1995年の「ゲレンデがとけるほど恋したい。」などに出演。少し年上の"成熟した大人の男"を演じる実力派俳優として評価を高めていった。婚約者・律子役の柴咲は、2000年の映画「バトル・ロワイアル」、2001年の映画「GO」への出演で注目を浴び、「GO」では同年の日本アカデミー賞において最優秀助演女優賞と新人俳優賞を受賞。シャープさを湛えた美貌で"強い女性"を演じることも多い柴咲だが、映画版「世界の中心で、愛をさけぶ」では、ある秘密を抱えた女性の脆さや揺れる心模様を繊細な演技で表現している。

■映画版は大沢たかお演じる、大人になった朔太郎の視点で物語を再構築

「世界の中心で、愛をさけぶ」は原作、映画、ドラマのそれぞれで構成や演出の差異はあるものの、白血病で余命わずかのヒロインと、彼女と恋に落ちた同級生男子の切ない恋物語が、主軸として描かれるのは共通している。映画版で特徴的なのは、三十代の朔太郎の視点で物語が動き出し、現在の出来事と高校生だった頃の日々が対比されるかのように描かれる点だ。

高校時代、学校でひときわ輝く存在だった亜紀。そんな彼女に惹かれながらも、シャイな朔太郎は遠くから見つめるしかなく、2人の恋が始まるきっかけは亜紀からのアプローチだった。彼が亜紀に何もアプローチできなかったのはシャイだからという理由だけではないのだろう、とも思う。単に子どもだったから、未成熟だったから、自分の力ではどうすることもできなかった。

それに対して、大沢が演じる朔太郎は成熟で自立した人間として描かれている。当初は律子との結婚に前向きになれない素振りも見せるが、亜紀との思い出を辿るうちに自分の気持ちを整理していく朔太郎。未成熟だった高校生の自分を思い出しながら、大人の男に成長した朔太郎は婚約者を探して、台風による暴風雨の中を歩き続ける。成熟した朔太郎の歩みは力強い。高校時代に亜紀との間で交換日記のようにやりとりしたカセットテープを聴いて、朔太郎が感傷的な表情を見せる場面もあるが、憂いを含んだ佇まいもまた、大沢たかおという俳優の持ち味である。そして映画版のキーパーソンであり、朔太郎の前から突然姿を消す婚約者・律子を演じる柴咲も、静かなトーンで大人の女性を演じきっている。

原作でも映像化作品でも「世界の中心で、愛をさけぶ」という作品のメインに据えられているのは、高校生の男女に芽生えた淡い恋が儚く散っていく様だ。だが、映画版においては、大人同士の男女が育んだ確かな絆と、その絆の強さを、大沢と柴咲の2人が抑制の効いた演技で提示してくれている。

文＝editaholic

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