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荒川良々×丸山隆平×上白石萌歌×赤堀雅秋が語り合う、赤堀作品の奥深さ 舞台「震度3」座談会

2025.7.22(火)

赤堀雅秋プロデュース「震度3」
赤堀雅秋プロデュース「震度3」

赤堀雅秋が作・演出・出演を務める最新作「震度3」が、8月から9月にかけて東京・大阪・福岡で上演される。気象庁が"屋内にいる人のほとんどが、揺れを感じる"と定義する震度をタイトルに掲げ、現代の市井に生きる人々の物語を描き出す本作。

主演は、2022年の「ケダモノ」以来の赤堀プロデュース作品出演となる荒川良々。共演に丸山隆平、上白石萌歌、水澤紳吾、山下リオ、西本竜樹、松浦祐也、あめくみちこと、実力派が集結した。なお、上白石と山下は本作が赤堀作品初出演となる。

今回は赤堀、荒川、丸山、上白石が顔を揃え、稽古前の心境や赤堀作品の魅力について語り合った。

――赤堀さんの作品に出演することは、多くの役者にとって憧れの一つだと思います。皆さんは、赤堀作品のどんなところに魅力を感じていますか?

荒川「舞台やってる人が本当に身近にいそうな感じがします。作り物っぽくなくて。その場で生きてる人たちが舞台に現れるというか。赤堀さんって正面向いて見栄を切るような演出をあまり好まない印象があるんですよ。だから、舞台"っぽさ"がない分、観ている側も本当にその空間に入っていく感じがしますね」

上白石「私もまさに同じ気持ちです。演劇が外に開かれているというよりも、観客が自分で"覗き穴"を作って、そこから人々の息遣いを覗いているような感覚になりますよね。登場人物たちはみんな生きるのが不器用で、アウトサイダー同士の掛け合いが多い。でもだからこそ、どこか愛おしく感じたりします。生きるのが上手な人なんていないけど、そんな人たちの中に救いをもらって帰れる。人間臭くて泥臭い、でもリアルなんです。会話は軽快なんだけど、その奥には"生きること"とか"死ぬこと"とか、重たいものが潜んでいる会話劇だなと思います」

丸山「僕も舞台も映像も両方拝見してきましたけど、たとえばキッチンとかスナックみたいな、生活に近いセットの中で物語が進むんですよね。実際には発生してないのに、"ああ、こういうときってこういう匂いしたな"っていうのが立体的に伝わってくる。セリフとかお芝居の空気とか、そういう演出の中で生まれてくるものなのかなと思います。自分も一度赤堀作品に参加しましたが、中にいてもその"隠し味"は結局わからなかった。でも、そこが面白いし、観ている側としても不思議と楽しいんです。出汁が何で取られてるのか、謎が残る舞台ですね」

――赤堀さんご自身は、ご自身の作品についてどう思われていますか?

赤堀「うーん、自分じゃよくわからないんですよね。あんまり"舞台っぽい舞台"じゃないですし。普段、映像をやっていて舞台もやりたい俳優たちは、わかりやすく舞台っぽいものをやりたい人が多い気がするのですが、僕のはそういう舞台じゃないから...。今ネガティブなことばっかり言ってるけど(笑)、やっぱり、恥ずかしさとか羞恥心みたいなものはずっと持っていたいと思っているし、人前で怒ったり泣いたりって、気持ち悪いと思うんです。そういうのが変にカルトっぽい空気になっちゃうのも嫌だし、できるだけフラットでいたい。あと、深刻な話でも喜劇的に描きたいと思ってるんですよね。滑稽さを持たせたい。そういう客観性が作品の魅力なのかもしれません」

――今回の「震度3」というタイトルにも、赤堀さんらしさを感じます。どんな意図があるのでしょうか?

赤堀「震度3ぐらいが自分の中ではしっくりきたんです。何かが起きる予兆でもあるし、もう起こってるのに、みんな気づいてないふりしてたり。できるだけ"社会派"っぽく思われないギリギリで、世の中に感じていることを出せたらと思っています」

――上白石さんは今回が赤堀作品初参加ですが、どんな心境ですか?

上白石「いろんな方に稽古場ってどんな感じなのか聞いて回ってるんです。この間まで間宮祥太朗さんが赤堀さんとご一緒されてたと聞いたので、どういう感じなんだろうって。何か備えておくことってありますか?」

赤堀「ないよ(笑)」

上白石「それが一番怖いんです(笑)」

丸山「そのままでいいと思う。家で何か考えても多分意味なくて(笑)。裸で、すっぴんでぶつかるしかないですよね」

荒川「本当、稽古場で修正してくれるから。自分で『よし、主役だ!』みたいな気負いもいらない。わざとやるのもあるかもしれないけど、舞台中央で『主役です!』って立つような芝居じゃないと思うから。一生懸命やるしかないですね」

丸山「座組によって求められることが全然違うけど、赤堀さんの現場だと変な癖が抜けていく気がします。僕もいろんなジャンルの現場を経験して、アイドルもやっているから、知らないうちに"癖"が染みついてる。でも赤堀作品だと、それを流してもらいに行く感覚。変なこと言うと"ふざけんな"って言われるかもだけど(笑)、すごく楽しみです」

――キャスティングについて、赤堀さんの狙いも伺えますか?

赤堀「今回は特に泥臭くて人間臭い人たちを意識してキャスティングしました。萌歌ちゃんは、最初は"異物感"を持ってくれたら面白いと思った部分もあったのですが、ふたを開けてみたら一番痛々しい人になるかもしれない(笑)。普段の素の佇まいや、取材でしゃべっているような感じを舞台でも見たいんです。みっともなさとか、嫌な部分も引き出したい。意地悪な意味じゃなくて、それが一番"愛おしい顔"だと思うから。ファンの方が見たことのない表情が出たら嬉しいですね」

上白石「ビジュアル撮影のときも、みんなで走ってる写真を撮ったじゃないですか。『なるべくブサイクに撮りたい』って赤堀さんがおっしゃってたのが印象的でした」

荒川「でも、やっぱりちょっと"朝ドラ感"ありましたよね」

上白石「私、もっと奇声上げて走ったりしてたんですけど(笑)」

赤堀「みんな崩れながら走ってたよね。人間って、走ったりご飯食べたりしてるときが一番無防備になる。その表情や居住まいを見せたいというのは、作家としてもずっと思ってることです。でも、アイドルみたいな人たちってファンのことをすごく意識するから、そういう表情を見せるのは"やめてくれ"って言われちゃうかもしれない。でも、そこも含めて新鮮に映るんじゃないかなって。ファンによっては『そんなの見たくない』って思う方もいるかもしれませんが(笑)」

――丸山さんも「パラダイス」で新たな一面が出せたような実感はありましたか?

丸山「正直、今まで体感したことのないゾーンに連れて行ってもらった感じはしました。でも"手応え"というより、毎日必死で一点取るみたいな、青春してるみたいな。キラキラした青春じゃなくて、泥臭く必死にその場を生きる。それだけで、届けるとかじゃなくて。ただ楽しかったし、しんどかったです」

赤堀「『やってやったぜ!』みたいな手応えはないですけど、みっともない丸山隆平にはなったかなと思います(笑)」

――最後に観客へのメッセージをお願いできますか?

赤堀「若い人に観てもらいたいですね。25歳以下はチケットも安いので。『人生ってこういう一面があるんだ』とか『あいつらよりマシかもな』とか、何か感じてほしい。演劇って偏見持たれがちだけど、こんな舞台もあるんだと新鮮に思ってもらえたら嬉しいです」

丸山「僕は普段アイドルをやっていますが、いろんな座組で経験を重ねてきて、こういう作品に出会えるのは本当にありがたいことだと思っています。ファンの皆さんがどんなふうに受け止めるか、SNSで見るのも楽しみ。違うなと思ったらそれもひとつ。まずは観に来てほしいです。劇場で作品自体を観て楽しんでほしいので、オペラグラスで僕の顔ばっかり見るのはやめてください(笑)。オレンジの服もご遠慮いただけると嬉しいです!」

上白石「演劇は敷居が高いと感じている方にも、赤堀さんの作品はきっと身近に感じてもらえると思います。私は今回、自分自身に貼っているレッテルを壊して、新たな自分を発見したい。もがいている私をぜひ劇場で目撃してほしいです」

荒川「本当に良い劇場ばかりなので、どんな舞台になるか自分でもわかりませんが、ぜひ観に来てほしいですね。キラキラした舞台じゃないけど、どうなるのか、楽しみにしていてください」

取材・文=川崎龍也

公演情報

赤堀雅秋プロデュース「震度3」

2025年8月21日(木)〜9月7日(日)
東京都 本多劇場

2025年9月10日(水)〜16日(火)
大阪府 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

2025年9月19日(金)〜21日(日)
福岡県 J:COM北九州芸術劇場 中劇場